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480.潜入作戦

(勇者パーティーにいた時に捕まえた盗賊団の誰かから聞いた記憶があるんだが、どっかの厳重に警戒している家に入る時に別の場所で騒ぎを起こして、その家の住民の気を逸らすって話があったような……)


 余り記憶力が良くないルギーレだが、それでも何とかその作戦内容を思い出しにかかる。


(確か一人が騒ぎを起こして……それ以外の三人はその騒ぎを起こしている内に潜入したって話だったな)


 だったらそれを今度は自分が実行する、とはいうが、実際にはいうのは簡単でもやるのは難しい。

 そもそもその話では全部で確か四人という多人数だったからこそ成功した話であって、現在一人しかいないルギーレでは人数が足りないのは見て明らかだ。


(まずいな、これは完全に手詰まりか……!?)


 ヴァラスやガルクレスがいればと思うのだが、彼らも彼らで大変なことになっているので贅沢はいえない。

 何とかして潜入する手立てを考えないと……と思いつつ視線を辺りに巡らせてみるが、目に入るのは大量の本が詰まっている本棚ばかりである。


(本がこれでもかと詰まっている本棚しかないな)


 本棚だからそれは当たり前じゃないかと自分に突っ込みを入れるルギーレだが、その瞬間に彼は頭の中に一つのアイディアを思いついた。

 しかしそれには多大なリスクが伴う。


(俺一人でできるか……?)


 うーんと腕を組んで考えてみるものの、迷っている時間は余りない。

 その作戦を実行すれば図書館中がパニックになってしまうだろうが、それで機密書物庫に入るための時間を稼げて見張りの帝国騎士団員たちの気が逸らせるのであれば、それ以外の作戦は考えつかない。

 そして、その作戦のために必要なのはある条件だった。


(この辺りなら丁度良さそうだな)


 本棚の一つを見上げてルギーレは心の中で呟く。

 機密書物庫に続くドアからはちょっとだけ距離があるものの、丁度帝国騎士団員たちからは死角になる位置だし、他の利用者も職員の姿も周りには見当たらない。

 実行するなら今しかない、と考えたルギーレは本棚の縁につま先をかけ、グッと力を込めて本棚の二段目、三段目と上っていく。


(まだ倒れんじゃねえぞ……)


 本が沢山詰まっている本棚は重い。

 紙の重量というものは意外に侮れないもので、一枚だったら息を吹けば飛んでしまう位に軽くても、それが本棚一杯となると簡単に人間を押し潰してしまうほどだ。

 だから本棚を倒して帝国騎士団員たちと他の利用者、そして図書館の職員の目を逸らそうと考えたルギーレだが、彼は感覚的に「棚の下の方は重い」ということを知っているのである。

 下の方に行けば行くだけ上に置いてある物の分の重量が増えるし、その分安定性も増している。

 反対に上の部分は重量が軽く重心も不安定なので、少しの力でも簡単に押し倒せたり引っ張り倒せたりする。

 そう、今の本棚のように。


(一番上のこの部分で……そして裏に人はいない……チャンスだ!!)


 できれば被害を最小限で留めたい。

 だからこそ、事前に他の人が本棚の陰にいないかを確認し、倒しても本だけがばら撒かれるかどうかで済むかをチェック済みだ。

 ルギーレは本棚の一番上から覗ける範囲だけを覗いて最後の安全確認を行ない、作戦開始。

 今の自分が飛びついている本棚から、足を伸ばして十分に蹴り飛ばせるだけの距離の狭さで後ろにも本棚がある。

 これだけ多くの書物を保管している国立図書館だからこそ、まるで迷路でも作るかのように所狭しと本棚が立てられているのだ。


(いいぞいいぞ、いい感じだ)


 本棚の一番上に手をかけ、後ろの本棚に向かって思いっ切り足を伸ばして一瞬だけ本棚の間に自分の身体で橋を作る。

 その橋は本棚を蹴ったことですぐに崩れ、崩れた橋の片方を支えている本棚がギィィ……と音を立てて傾き始めた。


「ふっ!」


 息を吐いてルギーレは床に着地し、素早く本棚から離れて様子を観察。


「ほ、本棚が!!」

「崩れるぞ、危ない!!」


 帝国騎士団員や他の利用者の慌てふためく声が聞こえるが、一度倒れてしまえば止めることはできない。

 まるで雨の日に増水した川の濁流のごとく本をばら撒きながら、ドッカンドッカンと音と埃の煙を立てて次々に倒れていく本棚。


(うおおやべえ!!)


 全部で五つの棚を倒し、阿鼻叫喚の状況を作り出しているその横でルギーレは機密書物庫のドアへと向かって一目散に駆け出した。

 そこには見張りの帝国騎士団員たちはもういなかった。

 このフロアにいる人間たちが本棚に意識を向けている横で、その本棚を倒してしまった張本人のルギーレは無事、機密書物庫へと潜り込む隙を作ることに成功したのだった。

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