477.逃げ切るには?
そう思いつつラーナの大通りを駆け抜ける裏切り者だったが、この大通りは名前の通り町のメインの場所で道幅も広いので、かなり人通りが多い場所として町の中では有名だ。
それにラーナは国立図書館があるほどの大きな町なので、北の方では一、二を争うほどに栄えている。
「くっそー、意外と素早い奴だぜ!!」
「このままじゃ逃げられるわよ!!」
それもまた、余計に人混みで大通りや横道が混雑しがちな原因を作り上げているので、地上から追撃をしているギルドの冒険者たちはその人混みでルギーレを見失いそうになっている。
人混みを掻き分け、武器を振り回してもこの町のギルドにはティレジュから通達が出ているので、ギルドのメンバーたちが捕まることがないのはまだ救いといえる。
その反面、この人混みはルギーレに取って大きな味方になる。
大きな町への人口集中から生まれた人混みの多さに今ばかりの感謝をしつつ、ルギーレはさっさと追っ手のギルド連中を振り切ってしまうべくスピードを上げ……。
(いや、ちょっと裏をかいてみっか。今までの流れからすると、あのギルドの奴らは俺がこの人混みの多さに乗じて逃げ続けると思ってるんだろうが……)
ルギーレはギルドの追っ手が考えている裏をかく作戦に出た。
生身の人間である以上、走れば走るだけ体力の消耗もするし、何より時間経過で情報収集がどんどん困難になるのは目に見える。
だったら「走って逃げなければ」いい。
せっかくこの町の人間たちが作り出している人混みが自分のすぐそばにあるのだから、使えるものは最大限に使わせてもらう。
(最後には上手くいけばそれでいいんだよ!!)
そんなギルドの冒険者たちが追いかけているルギーレは、「まさかここには隠れていないだろう」という考えが浮かぶのがピッタリの場所にいたのである。
すぐ近くにいる追っ手たちから見ても本当に「すぐ近く」にいるのだが、この距離でも気づかれないようにするための手段がルギーレにはあったのだ。
それは……。
(早くどっかいってくれ……!!)
武装して追いかけてきている連中は、この喧騒の中からでも割と目立つ格好の人間ばかりなので隠れているルギーレからもその存在を認識できる。
ルギーレはその大通りの喧騒を利用し、さっさと細い路地へと折れてそこにある大きなゴミ箱の中に隠れたのだ。
(意外と見つからないもんだな)
自分から見える距離で、自分を見失って狼狽えているギルドの冒険者たちが動くのを、ルギーレはゴミ箱の中の臭いと一緒に我慢している。
路地裏に入ると、全くといっていいほどに人気がないことがこうして隠れるのに好都合で幸いしたが、それだけではまだ逃げ切れない。
大勢から追いかけられている、という事実がそのゴミ箱に隠れさせる原因になってしまったのだ。
(路地裏に身を隠せれば俺だってそうしたかったんだが、あいつらが数に物をいわせて挟み撃ちにする可能性だってあるし、もしそれで路地裏で挟み撃ちにされでもしたら終わりだからな!!)
そう考えている内にギルドの冒険者たちは通り過ぎて行ってしまったらしく、何とか追跡状態から解除されたようだ……とルギーレはホッと一安心。
だが、この先はどうすればいいのだろうか?
パーティメンバーの他の四人とはぐれたままになってしまったのはかなり痛い。
とりあえずほとぼりが冷めるまではどこかに身を潜めるか……と考えるルギーレだったが、それだと物事がまるで進まないしいつまでも一か所に留まり続けるのも危険だ。
だったらどこか裏路地で情報収集ができそうな場所を探してみよう、と思い立ってルギーレはゴミ箱から出て歩き出す。
(わからないことがあったら、素直に他人に聞いてみるのが一番早いからな)
そう思い、ルギーレは目の前に見えてきた雑貨屋らしき裏路地の店に視線を向ける。
(でも、こんな格好でまともに話を聞いてくれるのか?)
物乞いと間違われてもおかしくない臭いも相まって、今から既に情報収集に対して不安を覚えるルギーレ。
今はこんなナリだが、着替える場所もなければそもそも着替えも持っていないので仕方がない。
臭い奴はお断り、というのは世界規模での常識だ。それはこの裏路地の店でも同じだろう、とルギーレにも簡単に想像できる。
しかし、自分は図書館の場所を聞くだけだし……と意を決して出入り口のドアを開けると、カランカランとドアにつけられているベルが鳴って来客を告げる。
その店の中に入ったルギーレは、店の奥にあるカウンターに立っている店主の元に一直線に歩いて近づく。
自分がこれから目指すべき場所が有名ならば、きっとこの町の人間なら知っているはずだから……と信じて。




