475.気になる「点」
しかし、その話と自分が追いかけ回されることになったそもそもの切っかけがどこでどう繋がってくるのかがルギーレにはまだわからない。
「でもさ、あのカインって奴は一体何がしたいんだ? そのギルドのシステムを変えるために色々と行動しているって話なのか?」
「さぁ……それは私にはわからない。逆に聞くが、そのカインと初めて会った時のことをもっと何か覚えていないか?」
「その時のことっていわれてもな……」
正直、このアーエリヴァに来てかなり時間が経っているような気がする。
その一方で余り時間が経っていないような気もするのは、今までいろいろなことに巻き込まれてバタバタしていたからであろう。
「俺が覚えているのは……俺が魔物たちを壊滅した後に、あのカインって奴が騎士団の人間らしき人物に失格宣言を受けてたことだな」
「失格宣言?」
「ああ。何だかよくわからないけど失格だっていわれてた。何か試験でも受けていたのかな?」
それ以外のことはあの決死の逃走を決めて逃げ切ったこと以外記憶にないので、結局カインが自分を追いかける理由が見つからない。
「ギルドの統合云々って噂もそれが本当かどうか知らないけど、本当だったとしても俺には依頼云々の話以外に余り関係ないんだから勝手にやってくれって話だよ。そもそも俺が何でこんな面倒臭いことに巻き込まれて、命の危機に直面しなきゃならないんだ……」
ブツブツと愚痴を垂れ流すルギーレだが、そういわれても今のヴァラスにはどうしようもない。
「そんなこといっても、今はとにかくこの事件解決のために頑張るしかないだろう」
「ああ、それはわかってるさ」
そういわれても、まだルギーレには気になることがある。
それはパーティメンバーの中にいるとされている「裏切り者」の存在だ。
修練場で聞いた「善意の通報者」の存在も気になるのだが、個人的にはその裏切り者が善意の通報者なのでは? とルギーレは漠然と思っている。
(あの時、俺はなるべく目立たないようにしていたのに結局俺が戦うことになってしまった。それもパーティメンバーの全員とだ)
それがもし通報の時間稼ぎのために仕組まれた手合わせだったとしたら、手合わせを了承したパーティメンバーの中に裏切り者がいて修練場の人間たちと結託していた、と考えても不思議ではない。
カインから情報が回って来ていたこともあってそれで自分の身なりを見て判断した、とも修練場の男はいっていた。
しかし、その通報者が誰なのかまでは判断できない。
(例えば、最初に修練場に入る時にワイバーンを置きに行ったのはガルクレスとエリアスだが、その置きに行く時に俺のことを通報して逃げられないように出入り口を固めてしまうこともできるよな。それからレディクだってヴァラスだって一緒にいたとはいえ、いちいちその動きまでは気にしてもいなかった……)
どのメンバーにも通報するタイミングは沢山ある。つまり、パーティメンバーの誰もが「善意の通報者」の可能性がある。
元々この国の人間ではないルギーレは、今までのこの旅路の中で自分の事情をパーティメンバーにも知ってもらった上で一緒にこうして旅をしているのだ。
それに、他の四人は全員ギルドに所属しているのでそのカインに自分を通報することはいくらでもできるだろうし、魔術通信で秘密裏の連絡をしていても不思議ではない。
だからこそ、自分をギルドに通報したのは誰なのかがさっぱり掴めないのが現状だ。
(くそー、考えてもわからないな)
本音をいえば裏切り者がいないのが一番なのだが、こうして疑ってしまうのもギルドの連中が自分に襲いかかってくるタイミングが良すぎる。
それに、タイトフォン遺跡の二人の冒険者の「あなたの情報は筒抜け」というあの言葉も更にルギーレの疑いを深める結果になっている。
この疑心暗鬼の状況から解放されるのは果たしていつになるのだろうか?
何にせよ、その裏切り者を見つけ出して対処しなければ行く先々でまた情報を流されて、ギルドの連中に通報されてしまうだろう。
(せっかく付き合ってくれてんのに、こうして疑っちまって悪いのはわかってっけど……やっぱり俺の命を狙っているってなるとな……)
もしかしたら裏切り者なんていないのかもしれないが、それならそれでいい。しかし、もし裏切り者がいるとしたらその時は適切に対処しなければならない。
仲間だから、といわれても自分が命の危機に晒されているのに変わりはないので、そんな甘いことをいっていたら最終的には捕まってカインになぶり殺しにされるか、それとも殺されてからカインの前に突き出されるか。
どっちにしてもルギーレには絶対にゴメンな展開である。
(こんな所で死んでたまるか。俺は絶対にマルニスとセルフォンと再会してこの国から抜け出してやるぜ)
ここまで様々な敵たちと戦ってきた自分がまだ知らない敵もいるのがわかったので、もっと自分は成長しなければいけないと実感しつつ、何としてもこの問題を解決することをルギーレは心の中で改めて誓った。




