471.世の中、甘くない
本来であれば歩いて二日かかる距離を、ワイバーンなら地上の障害物を関係なしに目的地に向かって空を一直線に飛んでいけるので、結果として出発からわずか二時間でその場所に到着した。
ルギーレの体感速度でいうと余り速くない気がしたのだが、エリアスによればこういう理由からスピードを出すのを控えてたのだという。
「スピードを出すと、急激な方向転換の際に同乗しているメンバーが落ちてしまうかもしれないし、下に見えてくる目的地を通り過ぎてしまってはそれこそワイバーンに乗ったのが無駄になってしまうからね」
そのエリアスの飛行方法によって、快適……とまではいかないものの非常にのんびりとした空の旅を満喫することができたルギーレ。
このヘルヴァナールの雄大な自然の景色を、空中から遠くまで見渡すことができて久し振りの爽快感を味わっていた。
だが、その雄大な景色を楽しんだ後に予想外の展開が待ち受けていたのである。
「どうしてこうなった……」
昼過ぎに北のバイブールの修練場に辿り着き、事前に立てていた計画通り情報収集のために修練場の中に入った一行。
そこで北の方の遺跡を探しているんだけど……とガルクレスが聞いてみた所、修練場の冒険者たちの空気が変わった。
「へー、あんたたちも南からきたのか。南からくる奴は多いけど、大抵何も収穫なしで帰ってっちゃうから期待しない方がいいよ。まぁ、止めはしないけどさ」
冒険者たちの中の一人がやる気なさそうに忠告する。
しかし、情報として仕入れてある三つの遺跡の中で未だに場所すら見つかっていないのは、この北の方にあるといわれている遺跡だけである。
北の方ということは場所は大まかにできても、山脈の北側もかなり広い地域になっているのでそのどこかまでは断定ができないからこそ、こうしてここまでやってきたのだ。
冒険者たち曰く、その遺跡は「リヴェダル」と呼ばれている鍾乳洞らしい。
「だがそこも数多くの冒険者が奥地までの道のりを進むのに挑戦しているものの、鍾乳洞の中には色々な仕掛けがあるらしい。その上、一番奥まで踏み込んだ冒険者が証言した内容によると「長くてだるかったし変な岩の壁があって先に進めなかった」とのことだそうだ」
「岩の壁……長いダンジョン……」
あの無限回廊をドラソンとノレバーと一緒にぐるぐる回っていたタイトフォン遺跡のことを思い出し、目立たないようにパーティの後ろで話を聞いていたルギーレは小さく溜め息を吐いてデジャヴを感じていた。
「それでも俺たちはそこにいきたい。だから地図か何かあれば欲しいんだ」
「うーん……わかった。だったらちょっと待っててくれ。余っている地図がないかどうか俺が見てくるよ」
冒険者の一人が敷地内の騎士団の詰め所へと向かっていき、約五分後。
その冒険者は手の平サイズに収まるほどに小さく折り畳まれた、シワシワの地図を持って戻ってきた。
「地図ならこれしかなかったけど、こんなもんでいいか?」
「ああ、全然これで問題ないよ」
そう言いながら地図を受け取ろうとしたガルクレスだが、冒険者にはその手をさっと引っ込められた。
「……おい、何すんだよ?」
冒険者の態度に一気に表情が変わったガルクレスに対し、その冒険者から思いもよらない発言が。
「ちょっと待った、やっぱりあの遺跡に挑むんだったらタダじゃ渡せないな」
その発言に、隣で成り行きを見ていた鍛錬場の職員からも同意の声が上がる。
「僕もそう思う。ここにいる冒険者たちの中にはその遺跡にこれから挑もうとしている人もいるからね」
「そうだな。だから……ちょっと腕前を見せてもらおうか?」
「う……腕前だって?」
まさかの要求に対してガルクレスは一瞬たじろぐものの、それでも何とか落ち着いて答える。
「まぁ、いきなり来た部外者が遺跡に挑戦したいっていったらそう思われても仕方ないか。だったら俺があんたらを相手にしてやるよ」
だが、今度は冒険者たちと修練場の職員たちからまたも思いがけない要求が。
「ちょっと待て。俺たちが戦うなんて言ってないぞ」
「は?」
「僕たちが気になるのはその……後ろにいる黄色いコートを着ている茶髪の男だよ」
修練場の職員に指を差されたルギーレは、まさか自分が指名されるとは思っていなかったためにさすがに動揺する。
「……お、俺?」
「うん。見慣れない武器を持っているからとても気になるんだ」
「別にやらないならやらないで俺たちは構わない。でもその場合、この地図は渡さないぞ?」
修練場の大勢の人間たちから感じられるその圧力に、とうとうルギーレ一行が根負けした。
「……いいよ、やるよ」
「おう、それならさっそく準備だ」
こうして、まさかのパーティメンバー同士での手合わせを行なうことになってしまった一行。
普通はこの修練場の冒険者を相手に実力を示すもんじゃないのか? と不思議に思いつつも、既にルギーレとガルクレスで戦うことが決まってしまったので、二人とも断ることは今更できそうになかった。




