469.聞きたいけど聞けない
ルギーレの質問に首を縦に振る動きをするヴァラスだが、質問をしたルギーレはまだ納得ができていない。
「それが俺が追いかけ回されている理由と何か関係があるのか?」
「だからそれは私にはわからないことだ。まあ、一番いいのはそのカインに直接理由を聞いてみることだろうな。
それがそう簡単にできたら苦労しない、とヴァラスの提案に対してルギーレは思うしかなかった。
結局、その日の夜は自分が追いかけ回されている理由もわからず、裏切り者がパーティ内にいるのかどうかもわからぬまま、ここ最近の自分が持ち続けている悶々とした感情を引き続き抱えたままでルギーレは眠った。
そしてその次の日の朝、一行は特に追っ手と遭遇することもないままにに新しい町に辿り着いた。
「さってと、ここで馬車は終わりだな」
エリアス曰く、こことあの二人の冒険者たちに出会った町の間を乗り合い馬車が往復運行しているらしいので、この町で馬車を置いていかないと怪しまれてしまうとの話だった。
ということは、ここから次の目的地までまた別の交通手段で向かわなければならないのだが、問題はその行き先である。
「それで、次の目的地の遺跡はどこにあるんだ?」
ルギーレはヴァラスに話を振ってみるものの、そのヴァラスからは意外な答えが返ってきた。
「……わからん」
「えっ?」
ヴァラスの答えに耳を疑ったルギーレは、彼の言っている意味がわからないのでその確認の意味が半分、それとは別に「もしかしたら今度は違う答えが返って来るんじゃないか?」との期待が半分で聞き返す。
しかし、ヴァラスの答えは変わらなかった。
「わからないんだ。三つ目の遺跡は山から北に向かった地方のどこかにあるって話なんだけど、それ以上の情報がないんだ」
わからないというのは一体なぜだろう? と思いつつ他のメンバーに視線を巡らせてみるルギーレだが、それぞれが首を横に振ったり手をブンブンと横に振るだけだ。
「他の皆もわからないか。それはその遺跡がまだ見つからないって話なのか?」
「ああ。そもそもこっちの方には自然が多くて魔物も多く出るから、この国の人間たちは余り来たがらないからな。騎士団でも腕っ節に自信がある人間が北の方に回される。それと雪も結構降るから、そういう環境に慣れている人じゃないと厳しいからさ。私の店でも、北以外から来ているお客さんばっかりだから北方面の情報はなかなか入らないんだ」
「なるほどな」
ヴァラスのその話を一言で纏めると、三つ目の遺跡の情報は「北の方にあるらしい」という以外はわかっていないようなので、まずはどこかで情報収集をしなければいけないらしい。
しかし、そこでルギーレはエリアス以外のメンバーに疑問を覚えた。
「あれ、でもさ……俺と合流する前に情報収集ってしなかったのか?」
「ああ。あんたに追いつくことが最優先だったから、合流するまでは時間が惜しくてな。それにどうせ北に向かうならそっちの町や村で情報を仕入れた方が効率が良いだろう」
ガルクレスが腕を組んで「こことかな」と町の中をグルリと見渡しつつ最後に付け加えたので、その言葉通りここの町でも情報収集をすることになった。
「じゃ、俺たちはいつもの通り情報を仕入れてくるから」
手配されているゆえに、下手に動けないルギーレはまたヴァラスと一緒にいさせてもらうことにして、他の三人は町の中に情報収集に向かう。
その後ろ姿を見ながら、ヴァラスがポツリと口を開く。
「……君はあの三人の中に、裏切り者がいると思っているのか?」
「まあな。断定は出来ないがその可能性が高い、というのは確かだな」
「それもそうか。まさか面と向かって「君は裏切り者ですか?」なんて聞けるわけがないし、もし聞いた相手が本当に裏切り者だったとしても素直に「はい、私が裏切り者です」って白状するわけもないだろうし、そもそもそんなことを聞いたら聞いたでこの先の関係がこじれてしまうだろうし……まさか聞いたりしないよな?」
「……本音ではしたいができねえ、というのが正しいな」
人には聞いていいことと悪いことがあるのはルギーレも十分にわかっているつもりだし、自分だって根掘り葉掘り聞き出されたくない話の一つや二つぐらいはある。
しかし、だからといってこのまま先でずっと黙っていられるようならどうにかして誰かが裏切り者かもしれない、というこの気持ちを晴らすべく行動しなければならないのも確かだった。
ヴァラスのいう通り、裏切り者かどうかをストレートに聞いてもその裏切り者が答えるわけがない。
(でも、裏切り者は本当はいないんじゃないかっていう可能性もあるんだよな)
自分の旅路の手助けをしてくれているパーティメンバーたちを、むやみに疑うことも出来ない。
しかも無理に聞けば関係がこじれて、パーティの雰囲気が気まずくなるのも目に見えている以上、聞きたいけど聞けないルギーレはそのチグハグさがストレスになっているのが実感できた。




