466.解けない疑問
しかし、ルギーレ一人でそのギルドからやってきたというドラソンとノレバーと行動させるのには不安があった。
そこで手を挙げたのが、先ほどルギーレのピンチを救ったレディクだった。
「乗り合い馬車が出ていることは知っていたからね。そこで馬車の御者に色々と話をつけて、僕と変わってもらったんだよな」
ギルドから出ている乗り合い馬車だということで、そろそろ交代だと話をつけてレディクは馬車の御者を引き受けた。
そしてルギーレと他人を装った上で、ここまでずっとドラソンとノレバーの動きを背中越しに監視しつつルギーレの身に危険が及びそうになれば、その時は自分がすぐに加勢するつもりで用意していた。
「上であの通路をグルグル回っている時には、最初の場所に戻っていることに僕は気がついていた。でも君に声をかけられずにいて……もどかしかったから仕方なく入り口付近に戻って待機していたんだ」
最終的にルギーレが案内板の裏をめくってみたことで謎が解けたものの、人間の思い込みとは恐ろしいものだと実感させられた仕掛けでもあった。
そんな会話をしながらタイトフォン遺跡を出た二人は、登山道近くの村まで戻ってからレディクが交代した馬車に乗り込む。
しかし、ここでルギーレに疑問が生まれる。
「そういえばこれは時間がないから相談してなかったんだけど、他のメンバーは後から追いついてきるんだろう?」
「そうだよ。みんなも後から来るっていってたし、自分たちの馬を使ってすぐにこっちに追いつく予定さ」
「なら大丈夫だな。でも、あんたと俺はこの先どうするんだ?」
乗り合い馬車はいずれ返さなければならないので、そうなるとそこから先の移動手段がなくなってしまう。
まさか二頭の馬を誰かが代わる代わる手綱を引いて一気に持ってくるのか? と突拍子もない考えに至るルギーレだが、レディクにはちゃんとした移動手段があるらしい。
「いいや、僕はこの乗り合い馬車の交代場所で馬なりワイバーンなりを借りるよ。それに君も一緒に乗せてやる」
「ああ……てっきり俺だけ歩いて行かなきゃならないのかと思ってたよ」
レディクがワイバーンにも乗れるという話はルギーレは事前に聞いており、それなら馬でもワイバーンでも交通手段には困らないだろうと安堵する。
だが、ルギーレの中に生まれた疑問はこれだけではなかった。
「でもさ、不思議なことがあるんだよ」
「何だい?」
「あのドラソンとノレバーとかいう奴らがいってたんだけど、俺が何をしているかが全てギルドに筒抜けだっていってたんだよ」
「何だって?」
あの地下の盾がある部屋に入ったルギーレとドラソンとノレバーをつけていて、階段の陰からじっと様子を窺っていたレディクだったが、三人の話していたその会話の内容までは隠れている場所から距離があったので聞き取れなかった。
だからルギーレのその報告は初めて聞く内容であり、レディクが驚くのも無理はない。
まさかそんな、という思いでルギーレを見つめるレディクに、見つめられる側のルギーレはさらにドラソンとノレバーから聞いた内容を口に出して続ける。
「俺が嘘をついているのかってのがどうして分かったかも教えてくれた。あのドラソンとノレバー曰く、俺をずっと見張っている人物がいるって話だったよ。そして俺の名乗ったローグという名前も偽名で、本当の名前がルギーレだというのも最初から知っていたらしいんだ」
「……まさか、僕たちのパーティの中に裏切り者がいるのか?」
その話をドラソンとノレバーから聞いた時、全く同じ疑問をルギーレも心の中に浮かべたのを覚えている。
「それは俺も思ったよ。もしくはもう一つの可能性として、俺たちのパーティをずっと後からつけてきている人物がいるんじゃないのかってことだ」
「うーん……」
誰がギルドに情報を流したのか?
今までの展開を振り返ってみて、この話で気になることはルギーレの頭の中に沢山浮かんでくる。
「まず俺があの二人に名乗った名前……ローグっていうのが偽名だってことは、とっさに俺があの時考えた名前でしかないんだよ。しかもローグって名乗るのを伝えたのはあの二人と、それから俺たちのパーティの中だけの話だったろ?」
「うん……そうだね」
ドラソンとノレバーを騙すための計画を手早く説明する時に、自分がローグという名前を使う話は他のパーティメンバーにしかしていないルギーレ。
「で、俺は既に一度あのカインとやらに出会っているから、俺の風貌とかこの服装の情報がカインを通して国内全土に広がっている……のはいいんだが、俺はあのカインって奴に名前を名乗った記憶がないんだよ」
「ん? そうなると話がおかしいな?」
ルギーレの記憶から生み出される報告に対し、レディクも少しずつ疑問を覚える。
「そうだろう。名乗ってもいないはずの名前を教えてもいない奴が知っている訳がないんだ。するとどこからか情報が漏れているとしか思えないし、それがあの二人がいっていたことになるんだろうな」
「ああ、それは確かに」
「それで、俺がルギーレって本名を名乗ったのは、今の俺が一緒にいるパーティのメンバーしかいないんだ。ということは……」
厳しい目つきでレディクを見据えるルギーレに、彼は気まずそうに呟いた。
「……僕たちの中に、誰か裏切り者がいるってことか」




