462.長い
その気まずい空気を残したまま、馬車は進み続けて翌日の昼前にようやく目的の登山道近くの村にたどりついた。
「僕が案内できるのはここまでだよ」
「ああ、世話になったな」
馬車の御者である、金色の髪を少しだけ長めにしている若い男に礼を言ってから、ローグと二人の冒険者たちは村で別れる。
「さてと、問題はその登山道の入り口がどこにあるかってことだな」
「えーと……確かこの村のもう一つの出入り口を出てから歩いて大体五分ぐらいだって聞いたけど」
「ならすぐ近くですね。行きましょうか」
というわけで食料を少し買い込んでからその登山道へと足を踏み入れる三人。
このアーエリヴァ帝国を代表する存在のユサテス山脈には、東西南北の各方面からいくつもの登山道が作られている。
その西側の登山道の一つがここであり、その封印が解けていない遺跡への最も近いルートになるらしい。
「ここか……結構険しそうだな」
「でも、ここまで来たんだから私たちは進まなければいけないだろう」
「そうですよ。それに、僕たちがその遺跡を先に踏破すればそれだけ名前が売れますからね」
そういう二人の冒険者とローグは登山道を進んでいく。
こんな自然環境の中だから当然魔物との闘いも幾度となくあるのだろうと思っていたのだが、意外や意外の展開で、その登山道の出入り口からおよそ十分程度でその遺跡への入り口が見えてきた。
「こ、ここ……?」
「そうです。冒険者が余りにも多く来るので立て看板もご丁寧にありますね。まぁ……それでも奥まで踏破した冒険者はいないって話ですし、そもそも先に進むのであれば封印を解かなければどうしようもないと思いますよ」
落ち着いた口調で、遺跡となっている洞窟の出入り口に立てられた案内看板とその周辺に点在する足跡を見てノレバーが分析する。
「でも魔物に遭遇しないだけ本当に良かった。遺跡に入る前から無駄な体力は使いたくないしな」
ドラソンが安堵の表情を見せつつ戦闘で遺跡に入って行ったので、彼に続いてローグとノレバーも遺跡の中に進む。
そんな三人の背中を、今しがた自分たちが進んできた登山道から見ている鋭い視線があることには気付かずに……。
「……なぁ」
「何?」
「だるくないか?」
「ええ……確かにそうですね」
タイトフォン遺跡に進入した三人は、まさかの中の状態に疲れの色を隠せない状態で一休みしていた。
それもそのはずで、タイトフォン遺跡の中には三人がうんざりしてしまう状況が待ち構えていたからだ。
その一つが、事前にローグがエリアスから聞いていた通り「かなり広い」遺跡だということ。
広いといっても最初の貯水施設であるバルトクス遺跡のように階層が分かれているわけではなく、むしろ出入り口から少し進んだ先に分かれ道が一つある以外は一本道なので迷う心配がない。
「……長いな」
「本当ですね……」
……のは良いのだが、このタイトフォン遺跡の入り口の壁にかけられていたボロボロの案内板を見る限りはかなり長い洞窟だ。
形としてはまっすぐ進んで突き当たりを左へ……また真っすぐ進んで突き当たりを左へ……と四角い渦巻き状の洞窟であり、若干下り勾配になっているのを感じられることから少しずつ地下に向かって進んでいるらしい。
それでかなり進んで来ているはずなのに、いつまで経っても最深部にたどりつける気がしない。
まるで、同じ場所をグルグル回っているようなそんな感覚なのだ。
「なぁ……これがいわゆる封印って奴じゃないのか? 封印があるからこうしていつまで経っても景色が変わらないんじゃないか?」
この前人未到の遺跡だからこんな封印があってもおかしくないだろう、とローグは水を飲みながら額の汗を拭った。
「でも、出入り口はここを戻れば絶対ある。ということは確実に私たちは奥に向かって進んでいるはずなんだ」
確信を持ってそういうドラソンだが、彼の相棒のノレバーからは何と違う意見が出てきた。
「私はそうは思いませんね」
「え?」
「さっきから思っていたんですけど、出入り口にこの洞窟の地図がありましたよね? 確かにあれはこの遺跡の最深部に続いているみたいですが、ローグさんのおっしゃる通りここを先ほどからグルグル回り続けているだけな気がします」
「じゃあ、私たちはあの看板に騙されているってことか?」
ドラソンの疑問にノレバーは首を縦に振った。
「はい……僕がこの通路を進んでいて感じたのは、時々上っている感覚があるんです。一部分だけ上っていて、また下り始めるようなそんな感覚を覚えているんですよ」
「ええっ、それっていわゆる無駄足になってるってことかよ?」
「そういうことになるでしょうね。残念ですが、このまま最奥にたどりつける気がしません」
かなりネガティブなことをノレバーが言い出し、ここから事態は急展開を見せ始める。




