461.ローグの過去
「……で、そのあなたの言い分というのは何なんですか?」
二人の冒険者たちが横並びで座り、その向かいにローグが座る形で三人乗車の馬車。
乗り合い馬車にしては小振りなのでこの人数でかなりスペースを使っているが、それでもローグ一人側のスペースは悠々と足を組んでふんぞり返る姿勢ができるだけの幅がある。
事実、そうした姿勢を取っているローグの態度に更にイライラが募る二人の冒険者たちの内、まだ若いゆえに血の気も多いタイプのノレバーがローグに問う。
それでも態度は変えようとせず、ふんぞり返ったまま答えるローグ。
「結論から言えば、俺をあの窓から投げ落としやがった紫頭の奴に見つかったんだよ。やっぱ遺跡を踏破したって噂の奴らだけのことはあったぜ」
「それで見つかって、剣を奪う前に捕まった……と?」
ローグは真顔で頷く。
「そうなんだよ。それで見つかった俺は色々と白状させられて、しかも宿の外にまで仲間が居たらしくあんたたちの姿を見た奴もいたらしい」
「えっ、僕たちのですか!?」
「そ、それじゃ結局目撃者がいたってことか?」
オロオロした表情になる二人の冒険者たちに、ローグは頷いて続ける。
「らしいな。けど俺だってやる時はやるんだぜ。咄嗟に機転を利かせて嘘の情報を流しておいたからさ」
「嘘の情報? それはどういうものですか?」
ノレバーの質問に、ローグは頭の後ろで組んでいた手を解いて左手で窓の外を指差した。
「南西の方に違う遺跡があるって情報を流してやった。そっちの封印までお前らに先を越される訳にはいかないんだぜー!! って暴れてやったよ。もちろん遺跡も封印も全部俺の嘘なんだけどな。だから今ごろ、あの連中は南に向かったんじゃないのか?」
「は、はぁ……」
頭が切れるのか、それともただの出任せが成功しただけなのか良く分からないローグの機転(?)に、二人の冒険者たちはリアクションに困ってしまうのだった。
しかし、自慢気に話すローグの向かいに座っている二人の冒険者たちにはそれもどうでも良くなってしまうぐらいにローグに対して気になる疑問が。
「それはそうと……あなたを見ていると気になることがあるんだけど」
「ん、俺?」
真面目な表情に戻った二人の冒険者たちの内、妹のドラソンが若干重いトーンで問い掛ける。
「君は何でこんな所にいるんだ? ギルド所属の冒険者だっていうが、私にはどうもそうは見えん」
ローグと再会する前、ノレバーと話していた怪しさについてほぼ直球で尋ねるドラソン。
それについて、ローグはこう答え始めるのだった。
「逃げてきたんだよ。俺が住んでいた村が壊滅したんだ」
「村が?」
「そうだよ。ずーっと南東の方にある国から俺は逃げて来た。今もそうさ。俺の住んでいた村はのどかな所で、ずーっと平和な日々が続いていたんだよ」
一旦そこで言葉を切り、顔を左手で覆ってグスッと鼻をすするローグ。
「ちょ、ちょっと待ってな」
涙に濡れた瞳で顔を上げ、右手で中断のサインを二人の冒険者たちに出す。
「も、もうその先はいい……大体の事情は掴めたし……すまなかった」
流石にまずいと思ったのかドラソンがローグの頭を右手で撫でるが、ローグの過去の話はまだまだ続く。
「別にいいよ。俺が話したくて話してるんだから。……で、ある時その村の近くで魔物が大量発生した時期があってな。その親玉が野生のでっかいドラゴンで、そいつが俺たちの村に配下の魔物を率いて襲ってきたんだ」
「ドラゴンだって?」
「ああ。だけど……殆ど戦いとは無縁の村だったからそいつの吐き出す炎のブレスに村ごと皆が焼き殺されちまってよぉ。その時十五歳だった俺は、運悪く隣の町に一人で農作物を配達しにいってたから誰も助けられなかった。帰って来たら村はもう、ほとんど燃え尽きていたんだ……」
余りにも惨い話に、二人の冒険者たち……特にベテラン冒険者のドラソンは話題を振ったことを後悔した。
「身寄りもなくなって住む場所もなくした俺は、隣町で働かせてもらいながらそこに住んでいた元騎士団員の男に、剣術や体術の稽古をつけてもらっていたんだ。だけどその人も余裕がなくて、余り長く留まると経済的に苦しくなっちまうってんで、皆に迷惑はかけられなかった」
それから一年後の十六歳の時にローグは旅に出た。
「それからは人目を避けて今までずっと生きてきたよ。依頼自体も余り人目につかないものを選んでいたりしてたから、他の冒険者たちに顔が余り知られていないし、まだランクもDだしさ。そして、それはこれから先も変わらないだろうな」
まあ、ランクがDということ以外は全部嘘なんだけどさ。
ローグ……ルギーレは最後にそう心の中で付け加えた。




