45.新天地へ
「お前を我の部下という扱いにさせてもらう」
「部下……ってことは、エスヴェテレス帝国の一員として行動するってことですか?」
「そういうことになる。くれぐれも我が国の名前に泥を塗るような行為はするなよ。それから今考えていて部下をつける予定だったが、さっきも言った通りこの城と研究所のありさまでは誰も動かせそうにない。だから、必ず定期連絡はしろ」
そこで疑問を投げかけるのはルディア。
「連絡ということは、魔術通信用の石を買い込まなければなりませんが、単価が高いので余り連絡の回数は多くないかもしれません。それでもよろしいですか?」
「その点については心配するな。我の部下として行動する者には、きちんとそういうものは支給させてもらうからな」
事実、騎士団員たちにも毎日最低二個の魔晶石を支給して業務に従事してもらっているのだという。
また定期連絡に関してはどこかの国に入る、もしくは出るとなった時には必ずするようにとのお達しだった。
それ以外にも何か気になることがあった時、レイグラードに関する重要な発見をした時、他国の重要人物たちとのやり取り、未開の地へ入る時などといった事態の進展や国が絡んでくるような話には連絡を入れてくれとディレーディとヴァンイストから命令された。
◇
結果として、復興作業が進められる中でルギーレとルディアは五人の騎士団員たちに見送られて旅立つことになった。
「まさか、こんな展開になるとは思ってもみませんでしたが……陛下からの命とあれば私たちも全面的に協力しましょう」
「ああ、しっかりやってくるよ」
ウェザートからそう言われつつ、魔晶石を受け取ったルギーレはその袋の重さと大きさに驚いた。
「……っとと、重いな。これ一体いくつ入ってんだ?」
「集められるだけ集めて五十個になった。いいか、無駄遣いはするなよ」
ルギーレにそう念を押すのは、ウェザートとともに久々に顔を合わせる気がするロラバートであった。
なんだかんだで、この二人は俺たちがこの城に来るきっかけを作った騎士団員なんだよなぁとルギーレは懐かしむ。
「俺たちもついていってやりてえけど、俺とブラヴァールはまだ病み上がりだからな。定期連絡で活躍報告を楽しみに待ってるぜ」
「ええ、もちろんですよ」
あの炎の悪魔と戦い、ブラヴァールとともに重傷を負っていたシュヴィスもこうして見送りに来てくれた。
シュヴィスとブラヴァールには空中でワイバーンに乗ってドッグファイトをしてくれた過去が懐かしい、とルディアは感謝の意を述べる。
「あのとき、シュヴィスさんとブラヴァールさんが一緒にいなかったら私たちはどうなっていたかわかりません。本当にありがとうございました」
「いえいえ、私たちは自分たちのできることをしたまでですよ」
ディレーディから渡されたこの魔晶石で連絡が取れない心配はなくなった。
しかし、同じく見送りに来てくれた副騎士団長のユクスにとっての心配事は、この二人のこれからの行き先である。
「それでお前ら、これからどこに行くのか決まったのか?」
「今のところはアーエリヴァ方面が通行止めになってるから、西に向かってヴィルトディン王国に行く予定です」
「……え?」
だが、ルディアのそのセリフに騎士団員たちの顔が一斉に曇った。
何かまずいことを言ってしまっただろうか?
そのルディアの予想は当たってしまったらしい。
「いや、そっち方面は今はだめだ」
「どうしてですか?」
「実はヴィルトディン王国とは、隣国同士ってこともあって最近は領土関係で緊張が高まってきているんだ。だから陛下の部下として入ってしまったら、向こうから何を言われるかわからないんだ」
「あー……」
確かにアーエリヴァ方面はまだ開通できそうにないが、まさかヴィルトディン王国がある西方面にも行けないというのは計算外であった。
緊張が高まってきているという話も今初めて聞いたので、どうやらかん口令が敷かれているのだろうとルディアは察する。
「じゃあ俺たちは、あのマリユスたちと勇者パーティーと一緒の道に進むしかないってことか?」
「そうなるのはあまり気が進まないけど、こうなっちゃうと南のファルス帝国に向かうことにするしかなさそうね……」
できることならば、あの勇者パーティーに会うのだけはごめんだ。
もうあの勇者パーティーとは何の関係もないので、これからはルディアと二人で新たなパーティーとして動くしかない。
ファルス帝国に入るのであれば、せっかくだからルディアが以前出会ったと言っていたあの奇妙な医者に会いに行ってみるのもいいだろう。
それから現在のギルドランクをDから少しでも上げておきたい。
こうして考えてみるとやることがいっぱいなので、まずは新天地へと向かうべく二人はディレーディが用意してくれた南のファルス帝国行きの列車に乗るために、帝都の駅へと向かって歩き出した。
第一部 完




