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458.怪しい二人組

『あー、そのカインっていうのがなかなかの実力者だからこそだよ。色々と武功を打ち立てた伝説の傭兵だとか稀代の冒険者だとか大層な噂になっているけど、実際にはそこまでの実力はないらしい。でも、国中で名前や顔が知れ渡っている人間でもあるからさ。ということは君以上に身を隠してコソコソするなんて無理な話だよ。それこそ転送魔術でも使わない限りは行く先々で目撃されることになるんだからね』


 その内容とぴったりマッチしているのが、今の複数の足音と男の声、そして何よりもその会話の内容である。

 出入り口のすぐ横にある、人一人がやっと通れるほどの路地を入った所にこのトイレはあるので、まさかここでこの時間に用を足している……それもあのロングソードの関係者というのは夢にも思わないだろう。

 となればこれは逆にトラブルの原因を突き止め、そして未然に防ぐチャンスかもしれない。しかし油断は出きないので、ルギーレはそっと路地から抜け出して足音を忍ばせながら声が消えた方向に進み出した。


(ちっこいのとでっかいのの男のコンビって奴かな。あの様子だと、どうやらやっぱり俺たちの泊まっている宿に乗り込んでくるみてえだな)


 周囲をうかがって、その二人の他に仲間がいないことをまず確認するルギーレ。

 そして今、まさに宿屋の出入り口から中に上がり込もうとしていた二人の男に、後ろからまるで亡霊のように突然静かに現れたルギーレが声をかける。


「……おい」

「っ!?」

「なっ、何だよ!?」


 その彼の呼びかけに、暗いこの町中でも見てわかるほどにビクッと肩が震える二人の男はゆっくりと振り向いた。


「何だか物騒な話をしていたみたいだが、ここに何か用があるのか?」


 あくまでも、ルギーレは今しがた初めて聞きましたという態度で接する。


「え、いや……私たちは別に何も……」

「というか、そもそも君は誰なんだ? こんな時間に外を出歩いているなんて普通ではないと思うが」

「あんたにいわれたくない」


 お前がいうな、と延髄反射並みのスピードで反応するルギーレだが、そこは頭を切り替えて質問に答える。

 ここからが勝負所だ。


「俺か? 俺はこの宿に泊まっているんだ。トイレがそこにしかないから用を足しにきたんだよ。で、これから部屋に戻るんだ。それであんたらは何をしにきたんだよ? さっきは剣がどうのこうのって話があったみたいだけどさ」


 そういうルギーレに対し、中年で大柄な金髪の男が反応する。


「何だ、私たちの話を盗み聞きしていたわけか?」

「それはよくないですね」


 金髪の男の刺々しい反応にピンク色の髪の小柄な男も同調するが、ルギーレは表情を変えずに答える。


「違う。トイレで用を足していたら聞こえてきたんだ。というかそもそも聞かれたくないような会話だったらもっと小声でしろ。どこで誰に聞かれているかわからないんだからな」


 ルギーレはそういいながら、仲間(?)に対してもう一度ここにきた目的を訪ねる。


「それで話を戻すけど、何であんたらはここにきたんだよ? さっきの会話からして泊まりにきたってわけじゃなさそうだけど、もしかしてギルドで噂になっている剣のことを確かめにきたのか?」


 ここであのロングソードの話を出すのはリスク的にまずいんじゃないかと考えてしまったが、そのルギーレの質問に男二人の顔がパアッと明るくなった。


「あれ、もしかして君も冒険者か?」

「それなら納得がいきますね。ギルドではあの剣の話でもちきりですけど、前人未到の遺跡を攻略してまで盗み出したって噂も聞いていますので、なかなか動こうとする人がいないんですよ。ですからそれを僕たちは奪い取りにきたんですよ」

「おー、そうなのか!! じゃあこっちで話そうぜ」


 ルギーレもつられて顔を明るくし、一旦トイレのそばまで二人を引っ張り込んでコソコソ話をする。


「実はさ、俺もあの剣を狙ってるんだよ。聞いた話だとかなりボロボロの剣らしいんだけど、かなりの値打ちがあるって話でさ。でも俺もそいつら……あ、丁度俺の隣の部屋に泊まってるんだけど、四~五人のグループだったな。そいつら相手に一人で乗り込んで行くのは無理だから、よければ一緒に剣を奪わないか?」


 上に見える宿の二階の窓を指差しそう提案するルギーレに、男二人は顔を見合わせた。


「君が協力するのか?」

「ちょっと待ってくださいよ。僕たちだけでやる予定だったのに……」


 やはりこの男二人は仲間らしい。

 そしてルギーレの協力要請を簡単に受け入れられないという態度だが、ルギーレは長いセリフの自分の言い分でそこから一気に畳みかけ始める。


「そりゃそうだろうな、俺だっていきなりいわれたらそりゃーあんたみたいに戸惑うさ。けどよく考えてみてくれ。俺はこの宿に泊まっていて、相手の人数もあるほど度把握しているしどこの部屋に泊まっているかもわかる。布で包まれた棒状のものを持っていたから恐らくそれが剣だってのもわかる。それにこんなことをいうのは失礼かもしれないけど、ほら……今の俺は部屋に自分の武器を置いてきてしまったからこうして丸腰だ。だからそれだけで相手の油断を誘えるし、薄暗い宿の中で下手に宿屋の壁とか床に武器をぶつけて、それで相手が起きてしまったらそれで作戦は失敗だろう? それにあんたらの会話を聞いていたらどうもこの宿に入るのは初めてっぽいし、だったら少しでも宿の内部構造を知っている俺を仲間にした方がもっとスムーズにことが運ぶと思うんだがなあ」

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