454.必殺技
その遺跡に続く登山道の近くには、登山客や冒険者たちで賑わうという小さな村があるらしいのでそこで準備を整える計画を立てた。
それはいいのだが、ルギーレにはここであのバルトクス遺跡に入る前に必殺技がどうのこうのとエリアスと話した記憶が唐突に蘇ってきた。
「あっそうだ、エリアス!」
「何だい?」
「確か俺、あの貯水施設の遺跡に入る前に約束しなかったっけか? 必殺技を見せてくれるって」
そう聞かれたエリアスも、ついこの前の話なのですぐに思い出して対応する。
「ああ、そういえばそんな約束をしていたね。忘れてたよ。だったら今日の野宿の時に僕の必殺技を見せるとしようか」
それでいい? と他の二人に問いかけるエリアスに、ガルクレスとレディクも頷きを返す。
しかし次の瞬間、ガルクレスの口から奇妙な一言が。
「必殺技なんて持っている奴がこのメンバーたちの中にいるとは思わなかったぜ」
「そうだな。私も必殺技なんて子どもの遊びの中だけの話だと思っていたんだがな」
「え……それってどういうこった?」
どうやらこの二人は期待しているといった様子ではなく、エリアスの必殺技というものを嘲笑しているといった反応だった。
確かにこの世界で生まれ育ったルギーレも、必殺技なんてものを考えて使っているような人間なんて見たことがない。
魔術であればそれぞれの魔術に名前がついているのでわかるのだが、武器術や体術などで「必殺技」なんてものはないのだし、レイグラードの衝撃波による範囲攻撃にだってそんな大層な技の名前なんてついていないのだから。
だからこそ、自分もガルクレスやヴァラスのようにエリアスの必殺技とやらをぜひ見せてもらおうじゃねえか、と明らかに馬鹿にしていたルギーレ。
そしてその日の夜、馬車を停めて野宿の準備を終えたエリアスはルギーレたちに自分の必殺技を披露することに。
「僕の必殺技はクリムゾンシルバーレインと、バーニングダブルショットだな」
「……二つあるのか?」
てっきり一つだけかと思っていたルギーレはキョトンとするが、エリアスはそれに構わずに続ける。
「ああ。僕は二つだけど世の中には必殺技を三つも四つも持っている人なんて山ほどいるさ。僕が今まで会った人の中で一番必殺技を多く持っていたのは確か……七つだったかな」
「そんなに……」
自分だったら七つも必殺技があったら覚え切れないかも知れないな……とルギーレは苦笑いしつつも、改めてエリアスのその二つの必殺技の説明をしてもらう。
「まずクリムゾンシルバーレインだけど、これは光属性の魔術を組み合わせている。攻撃っていうよりは相手の視界を一時的に奪うものだな。矢を相手の近くに放って、刺さった場所から強い光を一定時間発して隙を作るんだ。それで相手が怯んだ所で一気に勝負を決める。仲間がいれば仲間にその隙に相手を倒してもらったりな」
「ああ……なるほど」
それがどういう必殺技なのか、今の事細かな説明によってルギーレはすぐに察しがついた。
「それで相手を倒すからクリムゾンシルバーか……。じゃあもう一つの奴は?」
「バーニングダブルショットは名前の通りだよ。二本の矢を同時に放つ。その矢に炎の魔術を纏わせるのがこの必殺技だ」
エリアスいわく、炎を纏わせた矢を放つことによってただ単に相手を矢で射る以上のダメージを与える。
特に木から派生したような魔物相手だとその効果は抜群なのだが、矢を放つ方向を間違えると山火事になったりもするので気をつけなければいけないのがネックらしい。
しかし、いざここでその必殺技とやらを見せてもらおうと思ったルギーレたちにエリアスから待ったがかかる。
「で……すまないけど、今は僕の必殺技は見せられない」
「何で?」
「火事になったりしたらまずいだろう。でも必殺技を持っているのは本当だから、この先で魔物などと戦う機会があれば見られるかも知れないな」
申し訳無さそうにいうエリアスだが、断られてしまったこの時点でルギーレは彼の「必殺技」とやらにかなりの疑問を覚えていた。
自分が必殺技を知らない人間であるのをいいことに、もしかしたらただの出任せでものを言っているのではないのか? と疑心暗鬼になってしまう。
その後の夕食は余り味もわからず、疑心暗鬼状態から抜け出せないまま翌日の昼に小さな町に辿り着いた。
目的地であるその登山道の近くの村まではまだこれから二日もかかるので、食料だけはしっかりまず買い込んでおく。
それから馬も休ませておかなければならない。
もちろんここにもギルドがあるので、馬を休ませている間にその町の酒場で昼食をテイクアウト。
ルギーレが手配されている以上、気軽に酒場でゆっくりできないというのは何気にきついものがあった。




