452.箱の中身
その大きな木箱の中には、一振りの黒い柄と鞘が特徴的な大きめのロングソードが入っている。
どうやらレイグラードとはまた違う類のロングソードなのだが、これも果たして聖剣なのだろうか?
「何だか古臭い剣だな……」
まさかこれがお宝って訳じゃないだろうなと思うルギーレだが、他にそれっぽいものがこの階には見当たらなかったらしいので、木箱の中身を取り出して回収するルギーレ。
といっても自分は武器や防具には触れられないので、代わりにガルクレスに取り出して貰った。
「見た所はかなり年季の入っている剣だが、それ以外は飾りが豪華な以外は特に注目するべき所もないな」
目ぼしいものといえばここではこれぐらいなので、地下二階の魔物も倒したことだしさっさと外に出ようと決めたのだが、そんな一行が驚く事態が突然やってきた。
ウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォンウォン!!
「うおっ、何だ!?」
「わあっ!?」
ロングソードを取り出した影響が多分影響しているのか、突然遺跡の中にけたたましい警報が鳴り響く。
突然大音量で鳴り響いたその音に一同は身体をびくつかせながらも、それぞれ武器を構えて周囲を警戒する。
しかし、それ以上のことは何も起こる気配がない。
「な、何なんだ一体……」
とにかく何かが起こっていることは明らかなので、警報が鳴っている中で一行は用心しながら一階の出口に向かって進み始める。
しかし、その中でルギーレだけはまた「あの」音が聞こえて来ていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「え?」
「またあの音が聞こえるんだ。ピーッ、ピーッて……。それも、今度はさっきよりも明らかに大きく聞こえる!!」
どうやら、今の一行がいる場所の近くから鳴り響いている音らしい。
気になったまま脱出するのもモヤモヤするので、近くから鳴っている音となればそんなに捜索に時間もかからないだろうと判断して、まだ地下一階の捜索を続けてみることにする。
「おい、ここって隅から隅まで調べたのか?」
「いいや、あの木箱を見つけた時点で怪しいと思ってそれ以上はまだ調べていない」
「何だよそれ……」
この地下一階はてっきり調べ尽くしたのかと思っていたので、そのエリアスの回答にルギーレは呆れた表情になった。
だが、考えを変えてみれば「まだ捜索する余地がある」という話なのでこの謎の音の正体を確かめる為にも残りの調べていない部分を手分けして探し出す五人。
絶対にここには何かがあるはずだ。
特に自分にしか聞こえない謎のその音の正体がここにはある、と意気込んでルギーレが探し回った結果、それはさほど時間がかからずに見つけ出すことができた。
「何だ、これ……」
それは、この古い遺跡の中という場所からしてみれば余りにも不釣り合いなものだった。
地下一階の奥に、大型の機械や監視用らしきモニターが鎮座している部屋があったのだ。まさしく「コントロールルーム」といえる部屋なのだが、なぜこんなものがこの遺跡にあるのかが分からない。
並んだモニターはうんともすんとも動いていないので、使われなくなってからかなりの時間が経過しているだろうし、水の中から上がってきた遺跡との情報なので機械系統は既に全て駄目だろう。
「何だこりゃ?」
「変な部屋だねえ。それにこれ……金属の塊で出来ている箱だと思うけど……魔力で動いているのかな?」
ガルクレスもレディクも、エリアスもヴァラスも警報が鳴り響いていることを忘れてその機械やモニターをまじまじと見つめる。
その一方で、ルギーレだけは一つのモニターの横にある赤いランプとその前の金属製のピン状のスイッチに注目する。
「これ……まさか……」
首を傾げながらも、その奥に傾いた状態のピンを手前にパチンと動かしてみる。するとそれと同時に、けたたましく鳴りっ放しだった警報が止んだ。
「あれ、音が止まった……?」
「それがスイッチなのか?」
部屋を見回すヴァラスと、ルギーレの手元を覗き込むエリアス。
しかし、ルギーレの耳にはもう一つの異変が起きていた。
「そうらしいな。それと俺の耳に聞こえていたあの謎の音も、これを動かしたら聞こえなくなったぞ」
「そうなの?」
「じゃあ全てはここが原因だったってことか?」
レディクとガルクレスが疑問を覚えるが、そんな二人の横でルギーレはあるものを見つける。
「ん、これは……注意事項の張り紙?」
字がところどころ掠れて読めなくなっているが、それでも前後の単語の繋がりから文章を読み取って内容を理解することはできたので、それを他の四人に伝える。
「はっはあ、成る程な……ここで侵入者を昼夜問わず見張っていて、異変が起きたらさっきの警報を鳴らしていたんだ。それから下にあった水門はあのレバーでもそしてここでも操作できるらしい。で、定期的にここで水を抜いたり入れたりしていたのと、侵入者がきたら自動的に察知してくれるセンサーシステムもあるらしい。このスイッチで操作できる奴だな」
センサーは魔力に反応して無音で反応するらしいが、機械の中では小さくピーッ、ピーッと……ルギーレの聞こえていた音が聞こえるシステムとなっていたようだ。
そして、不審者は問答無用で溺死させてしまう仕組みになっていたのだとここで全てが理解できた。
「要するに短く纏めると、侵入者対策の機能がここにはあるってことかな?」
「そうだな。元々ここは雨が降った時とかに貯水して湖の水ぐらいを調節していた施設らしいけど、一方では王家の秘宝を保管する場所でもあったらしい。貯水施設っていうのは一種のカモフラージュらしいけどな」
注意事項の説明書の隣にある文章を読みつつ、ヴァラスに答えるルギーレ。
あの地下二階の魔物は何なのかわからないが、長いことこの施設が湖の底に沈んでいたので住み着いたのだろうと推測。
結局仕掛けがわかってしまえば大したこともなく、センサーシステムのスイッチも切ったのでもうここに用はない。
後はこの帝国の調査隊の仕事なので、一行はこの貯水施設を後にするために歩き始めた。




