450.解き明かされ始める謎
(なっ、何だ!?)
その轟音に周りをキョロキョロと見渡して異変を確認するルギーレだが、少なくとも自分に近い場所で起こっているものではないらしいとわかった。
約二分ほどそれが続いた後、ようやく轟音が止んで辺りに静粛が戻ったのでルギーレは再び歩き出す。
(な、何だったんだよ……?)
本当ならあの窓がある場所から外に出たいのだが、あいにくそこまで上れそうな階段やスロープやハシゴの類が見当たらなかったので、先ほど自分が蹴り破った扉から外に出てその先の通路を歩き出す。
それにここの主らしき魔物を倒したのはいいのだが、肝心の封印やらアイテムとやらの存在が見つからないのも気になる。
ただの噂が独り歩きしているパターンなのか、それともここまで到達している冒険者や傭兵がいないのでそれがどこにあるかすらわかっていないからなのか。今のところは後者の説が有力である、とルギーレは考えていた。
(水に流されて死にそうな思いまでしたんだし、これで何もありませんでした……なんてなったら俺は暴れても仕方ないよな)
少なくとも、その封印だとかアイテムだとかの情報を流した第一人者に出会って一発ぐらいぶん殴ってやらないと気が済まないレベルの体験をここにくるまでにしているだけあって、ルギーレの瞳は不自然なほどにギラギラしていた。
◇
一方でルギーレがそう思いながら歩き始めたころ、二階上の一階部分ではガルクレスたちが戸惑っていた。
「あ、あれ……水が引いたぞ?」
「よくわからないけど助かったな……」
レバーを引き下げたルギーレが穴に落ちてそのまま水に流されてしまった一方で、ガルクレスたちはその水の流れに巻き込まれないように各自で距離を取ったり足を踏ん張ったり、違う部屋に避難して壁やドアを防壁にして何とか流されずに済んだ。
その後はもちろん各自でルギーレを捜すために歩き回っていたのだが、時間が経つとまた足元から水がじわじわと溜まってきていることに気がついた。
「おいおい、こりゃもう無理なんじゃないのか!?」
「くっ……仕方ねえ!!」
更に、さっきルギーレが落ちてしまった穴もいつの間にか塞がってしまっていたので、穴が開く前と同じペースで水位が少しずつ上がってきていた。
これはもうどうしようもないと思い、申し訳ないと心の中でルギーレに詫びつつもこの遺跡からの撤退を決定するガルクレス。
他の三人もそれに同意して、止むを得ず遺跡の外に出ようとした矢先にまたこと態が変わる。
ゴゴゴ……と轟音が遺跡の中に響き渡るともに、足元からジワジワ上がってきていた水位が下がって行くではないか。
何が何だかさっぱりわからないが、ともかく水が引いてくれたのは喜ばしいことなのでガルクレスたちはルギーレの捜索を再開する。
「ねえガルクレス、何か聞こえたりしない?」
このメンバーたちの中で一番五感が優れているであろうガルクレスに期待するレディクだが、渋い表情でガルクレスは首を横に振った。
「ダメだ……さっきの水の流れで匂いも一緒に流されちまったみたいだし、そもそもこの遺跡の中はカビくせーから匂いなんかとても感じられねえよ」
「僕も探査魔術を使ってみてはいるけど、どうもこの遺跡の中は魔術を遮断するような謎の力が働いているらしくて、うまく発動できない」
ガルクレスとレディクがそれぞれの能力を発揮できないとなると、残った手段は自分の足を使ってルギーレを捜すしかないらしい。
「だったら手分けして捜すしかなさそうだな」
「ああ。僕たちはちょうど四人いることだし、グループを二つにわけて捜索するのはどうだ?」
ヴァラスとエリアスの提案にその二人も同意した後、この一行は地下に続く階段を一階の奥に発見した。
それを使って地下一階、そして二階とガルクレスとレディク、エリアスとヴァラスで二グループにわかれて探索を続ける。
その二つのグループの内、最初に目標に到達したのは地下二階に進んでいたガルクレスとレディクだった。
「あっ、ルギーレ!?」
「お、おいあんた……生きてたのか!!」
「人を勝手に殺すな……」
キョロキョロと辺りを見渡しながら進んでいたルギーレと、地下二階に降りて通路を歩き回っていたガルクレスとレディクがバッタリと遭遇。
これは丁度いいとばかりに、ルギーレは自分が先ほど倒した魔物の死骸があるあの正方形の部屋に二人を案内する。
「こ、こんなのがいたのかよ?」
「えっ、それでこれをあんたが一人で仕留めたってことか?」
自分よりも明らかに大きな図体を持っているその四本腕の魔物の死骸を見て、ガルクレスとレディクはこれをルギーレが倒したなんてにわかには信じられなかった。
「俺だって勝てたのは未だに奇跡だと思ってるよ。それよりも向こうに貯水池みたいな所があって、そこに俺はあの穴から流されて出てきたんだ」
「貯水池……?」
一体それは何なんだと首を傾げつつもガルクレスとレディクがルギーレの後について行くが、そこには当のルギーレでさえも予想しない光景が広がっていた。
「あ、あれ……?」
「おいおい、水なんて何も貯まってねえじゃねえか」
おかしい。
さっき自分が流されてきた時には明らかに水が溜まっていたのに、今はそこにぽっかりと腐った人間の死体や魚が跳ねている縦長の穴しかなかった。
しかし、それを見たルギーレはもしかしたら……とレディクとガルクレスにここに残るように言い残し、自らはあのドアの横にあるレバーの元へと走った。
(もしかして……)
そのレバーを上げてみると再び轟音が響き渡り、そして収まる。
それからもう一度その二人の元に戻ってみると、ルギーレの予想通りそこには再び水が貯まっていたのだった。




