448.流された先は?
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「……ぐっ!!」
穴の底にある深い水の中に落ちたとわかった瞬間、ルギーレは咄嗟に息を止めてそのまま水の流れに沿って流され続ける。
限界まで息を我慢し、とにかく流されるまま息継ぎができるチャンスを待った。
(こんな場所で死んでたまるか……何が命喰いの遺跡だ!!)
心の中で固く決意をしながら、目を開けて自分の置かれている状況を判断しつつ流される。
周りはまだ暗闇で、時折りどこかに身体がぶつかるので何か水路のような場所を流されているのかもしれないと推測する。
(まだだ……まだまだ、我慢……)
プク、プクッと小刻みに息を吐き出しつつ流されていくと、やがてその水路が終わりを告げた。
それと同時に、上の方から少し光が差し込んできたのでそれに向かってルギーレは腕と足を動かす。もしかしたらあの世への光かも知れないが、そんなことを考えるよりも先に身体が動いていた。
(あの光は……?)
冥府への光ではなく、地上への光であって欲しいと願いながらだんだんと大きくなるその光目掛けて息を吐きながらルギーレは泳ぎ続けた。
「……ぶはっ、はぁ、はぁっ!!」
その息も底をつき始めた頃、ルギーレは何とかその光の元に辿り着くことが出来た。
それと同時に水の中からも上がることができたので、どうやら自分はまだ生き残っているようだ……と息を切らせながら安堵の表情を浮かべる。
(生き残ったのは良いけど……ここは一体どこなんだ?)
さっきと似たような石の壁の通路があり、後ろには今しがた自分が流されて出て来た水場がある。
つまり後戻りは出来ないし、雰囲気や通路の造りを見る限りではまだ遺跡の中に居るようなので、ルギーレは先に進むしかないのだ。
(くそ……はぐれちまったな。というかあいつらもここに流されて来るんじゃないのか?)
その思いでバッと後ろを振り返るルギーレだが、五分経過しても誰も上がってくる様子がないので、誰も来ないのだと諦めて首を横に振ってから再度歩き始める。
レイグラードが流されていかなかっただけ、まだ不幸中の幸いだった。
(俺一人になっちまったか。だけどここで諦めたら終わりだ!!)
もしまだあの四人が生きていたら再会したい、と強く願いながら自然と早足になるルギーレだが、ふとあることを思い出して足が止まった。
「……あれ?」
さっきまで聞こえて来ていた筈のピーッ、ピーッという謎の音が今は聞こえなくなっている。
流されて場所が変わったからだろうか?
しかし、この遺跡に踏み込んだ時からその音が聞こえてきたので今聞こえないってのも変な話だよな……と思ってしまう。
(とにかく、どこか外に出られそうな場所を探さないとダメだなこりゃあ……)
音が消えたのは耳障りじゃなくて良かったけどな、と思いつつ足を進めるルギーレの目の前に、一つの木製の大きな扉が現れたのはその時だった。
用心しながらその扉を開けてみると、その先はまだ通路が続いている。
通路は吹き抜けの二階部分に繋がっており、通路の突き当たりから回り込む形でスロープが下の階に伸びていた。更にその先の通路には人骨が至る所に散らばっているので、ここまで踏み込んだ人間も命を落としたらしい。
自分はこうやって同じ姿になってしまいたくないので、また早足になりつつスロープを降りて下の階へルギーレは進む。
すると、上の階にいる時は気がつかなかったことがあった。
(あれ? そう言えば水位が全然上がる気配がないな)
さっきは緊張と恐怖で時間経過を早く感じていたのかもしれないが、気がついてみれば水位が上昇する気配がこれっぽっちもない。
スロープが上に向かって伸びているならともかく、下に向かって伸びているなら自然と水面に近づいている筈なのにこれは奇妙である。
(さっきの遺跡とは違う場所なのか? まさかそんな馬鹿な)
しかしここで考えても答えは出そうにないのでルギーレは先に進みたいのだが、まだ一つここで気がついたことがある。
(そういえばさっきのピーッ、ピーッて音は消えたけど違う音が聞こえてくるようになったぞ……)
今のルギーレの耳に聞こえてくるのは、明らかに何かが歩き回るようなドスン、ドスンという重苦しくて不規則な音だった。
人間や獣人のそれではない大きさの物体が移動しているのかもしれないそれは、スロープの先にある円形の広場の一角にある木の扉の奥から聞こえてくる。
(一体、今度は何がくるってんだ?)
こんな時に一人ぼっちなのが恨めしい。
せめて誰か仲間が一緒にいてくれたり、ルディアが一緒にいてくれれば自分と違う意見を出してくれそうな気もするが、あいにく自分は一人なのでそこまで色々な考えは持っていない。
それならば、恐怖心を押し殺してでも気の扉の先を確認するしかないだろうと決意を固めるルギーレ。
(ここまで来たんだし、俺はもう引き返せない!!)
レイグラードを鞘から引き抜いてギュッと強く握りしめ、ルギーレは一度深呼吸をしてから木製の大きな扉をそっと開けた。
その先に待ち構えていたものは……。




