445.事前情報
モヤモヤを残しつつもルギーレを乗せた馬車は平原を進み、エリアスと出会った翌日の夜に一行はようやくその命喰いの遺跡の近くにある町に辿り着いた。
「じゃ、俺は宿屋を確保してくるぜ」
「それじゃ俺とレディクは情報収集をしてくる」
ガルクレスが宿屋の確保に、ヴァラスとレディクがギルドに情報収集に向かったので、残されたルギーレはエリアスと二人きりになってしまった。
「よし……それじゃ魔晶石を買いに雑貨屋に向かおうかと思ったがそれは無理だな」
この時間じゃやってないんだよな……と呟くエリアスの横で、ルギーレはエリアスに尋ねる。
「それはそうと、ここに来るまでにあんたたちから聞いた命喰いの遺跡っていうのは、余り広くない代わりにいくつものトラップがあるらしいじゃねえか。その中でも水が下から湧き上がってくるっていうのが「命喰い」の由来らしいが、もしそれに引っかかりそうになったらすぐに退却するんだろ?」
そのまま進んで行って死ぬのだけは絶対にゴメンだ、という感情が透けて見えるルギーレのセリフに、エリアスは曖昧な態度で返してきた。
「どうかな……そこはガルクレスの出方次第だろう」
「何だって?」
てっきり退却前提で話が進むものだとばかり思っていたルギーレは、まさかの回答に一気に表情が曇る。
「おいおい……何言ってんだよ。あの男が変な気を起こさないようにして欲しいもんだな」
「僕に言われても困る。このパーティのリーダーはガルクレスなんだから、ガルクレスが全ての実権を握っているんだよ。だからそれはガルクレスに言ってくれ」
こりゃあガルクレスを何としても説得しなければならないだろうな……と頭を痛めるルギーレだが、そんな彼を横目にしてエリアスがポツリと呟いた。
「まあ、魔物の類は僕の必殺技である程度は何とかなりそうだがな」
「必殺技?」
今まで生きてきた中で余り聞いたことがないような単語が、今明らかにエリアスの口から出てきた。
反応するルギーレに、エリアスはさも当たり前だとでもいう表情と口調で答える。
「ああ、そうだよ。僕は必殺技を会得しているんだ。それがあるからこそ僕たちは今まで戦って来られたんだし、人間よりもサイズの大きな魔物を相手にする時は通常攻撃だけじゃとても手に負えないよ」
「だったら、あんたの必殺技っていうのに興味があるから見せてくれないか?」
自分もまがりなりにも剣術を習っている身として、ルギーレは少なからずその必殺技とやらに興味があった。
「良いけど、今日はもう疲れたし町中じゃ出来ないから、その遺跡の近くに行ったら見せてあげるよ」
そう約束をして、ガルクレスの手配した宿の一室に五人が集まりヴァラスとレディクの集めてきた情報を共有する展開になった。
事前に色々情報を集められるだけ集めておき、それから向かうだけでもだいぶ心情的に楽になる。
「さて、俺たちはギルドの支部と酒場の二つで情報を集めてきたわけだがな。その遺跡の最深部まで辿り着いた者は今までいないという話だ。従って、最深部に何があるのかわからない。魔物がいるのかもしれないし、何もないかもしれない」
そこで言葉を切ったヴァラスは、目と顎でレディクに合図を出して続きを促す。
「あ……ええとそれから封印があるかどうかについてなんだけど、全部で三つの封印があってどうやら二つまでは破られたらしいんだ。でも三つ目の封印がかなり強大なもので、それは水が上がってくるのと合わせて今まで破られていないらしい。だからまずはその封印まで辿り着くのが目標だね」
そこでガルクレスから手が上がる。
「はい、質問」
「何だ?」
「その遺跡なんだけど、魔物とかの情報があれば詳しく教えてくれるか?」
ガルクレスのその質問は自分も知りたいものだったので有り難い、とルギーレは心の中で思いつつヴァラスかレディクからの答えを待つ。
だが、二人から出てきた答えは曖昧なものだった。
「それについてなんだが、魔物の足跡が複数あったことから出入りしている形跡はあるみたいなんだ。だけど……実際に中で魔物の姿を見た奴は誰もいないらしいんだよ」
「え?」
それはまた不思議な話だな……とルギーレは思うが、ガルクレスはすぐにもっともらしい答えを導き出した。
「ああ……魔物も水に飲み込まれて溺死しちゃったってことか?」
「その可能性が高いな。いずれにせよ人間も、それから魔物も容赦なくその命を喰われてしまうってことだろう」
まだ実際にその遺跡を見たわけでもないのに、今の段階から身震いをしてしまうパーティメンバーたち。
集めた情報が全て本当だとすれば、名前負けとは無縁の悪名高い遺跡であるのは間違いないらしい。
「……退却の手順は考えているんだろうな?」
意を決してルギーレがそう口に出せば、真面目な顔のガルクレスが頷く。
「もちろんだ。俺たちだってわざと死ににいくわけじゃないからな。水が上がってくるってわかって、これ以上奥に進むのが無理ってなればさっさと引き返すんだ」
(大丈夫なのか、そんなアバウトで……)
不安な気持ちがますます大きくなるルギーレだが、それでもリーダーの決めたことなのでここは彼に任せることにして、その日は早々にベッドに潜り込んだ。




