444.知り合いの知り合い、つまり他人
「あれ、その人は……?」
「ああ、この馬車を手配してくれた俺の知り合いだ」
「エリアスだ。よろしく」
エリアスと名乗った男はプラチナブロンドの髪をウェーブ状にしており、黄緑色のコートを着込んで背中には弓を背負っている。
その恰好を見て、一瞬ルギーレの表情が曇った。
(何か……どうにもうさんくせー気がするぜ……)
エリアスと名乗ったこの男と、あのカインとは違うことはもちろんルギーレも分かっている。
しかし、カインと初めて出会った時の得体の知れない不安感はいまだにルギーレの記憶に強く残っているからこそ、ルギーレにとっては一種のトラウマでもあるのだ。
そしてそのトラウマと同じような感覚が、このエリアスと名乗った男からも感じられるのはなぜだろうか?
「……どうした?」
「ああ、いや……別に何も。俺はルギーレだ。よろしく」
ルギーレは気を取り直して、茶色い手袋をはめているエリアスと握手を交わす。
「この男は俺の知り合いの知り合いなんだ。弓と短剣の扱いについては腕は確かだし、馬もそうだがワイバーンにも乗れるから色々と活躍してくれると思うぞ」
「ワイバーンか……」
ワイバーンといえば、ドラゴンにも匹敵する機動力を持っている空の覇者の部類でもある。
そしてマリユスやベティーナといった勇者パーティーの人間たちの愛用していた移動手段でもあるので、それとどうしても重ね合わせてやっぱりエリアスからは胡散臭さを拭い切れないルギーレ。
そんな彼を尻目にこの先の進軍予定を話し合う他のメンバー。最初は遺跡近くにある町に寄るらしい。
「その町に着いたら遺跡に向かうけど、噂が噂だけに準備はしっかりしておかないとな。あんたの防具も決めないといけないし、食料も買い込んでおかないと」
馬車が停まっていた場所は平原の隅で、ここを超えてしまえばその目的の町が徐々に見えて来るというのがガルクレスの話だった。
ガルクレスがこのパーティのリーダーとなって計画を立てる横で、エリアスがルギーレの方を向いて疑問に思ったことを口に出す。
「ああ、そういえばあんたの身体からは恐ろしいほどの魔力を感じるもんな。それだとなかなか戦えるんじゃないのか?」
「はい?」
エリアス以外のメンバーは彼のその言葉に目を丸くする。
その中で、一番事情を知っているガルクレスにルギーレがまず訪ねてみる。
「おい、俺からすごい魔力を感じられるというのはエリアスに話したのか?」
「ああ、それはドラゴンを探している人間だっていうのを話した時に、ついでにもう話してあるからな」
そういうガルクレスのセリフだが、だからといって「戦える人間」というのをなぜこのエリアスが言い出しているのかルギーレにはまるで分からない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。だったら何で俺が戦えるっていう話が出て来るんだ? 俺はまだ戦えるかの実力を見せてもいないんだぞ?」
その疑問にはエリアス本人から答えが返ってくる。
「ああ……その話なんだがその昔、僕はこんな噂を聞いたことがあってな。もう昔の話なんだが、この世界のどこかに不思議な空間の裂け目みたいなのができたらしくて、そこから不思議な物が現れたっていう話さ」
「不思議な物……って、まさか!?」
ピンと来た表情のルギーレを見て、エリアスは頷いて話を続ける。
「そう、あんたから感じられるぐらいの恐ろしい量の魔力を持っている武器の話だ。その武器は時には世界の平和を守り、時には世界に災厄をもたらしたっていう伝説の武器なんだが、僕はそんなのは見たことも聞いたこともない」
ちょっと興奮気味に話すエリアスだが、ルギーレの感情はどこか冷めている。
「まるでおとぎ話だな。で、その魔力が凄い武器っていうのは今はどこにあるんだ?」
「さぁ? 今しがた言ったが、僕はそんなの見たことも聞いたこともない。だからこそ伝説なんだろうな。だからそのドラゴンの遺跡をたどっていけば、その武器にたどりつけたりするんじゃないのか?」
どうやら、その武器の行方についての真相は闇の中らしい。
「そうか……もしその武器がこの世界にいるんだったら俺もぜひとも見てみたいもんだな」
「俺たちも同じことを考えていたさ。けど、所在がつかめないんじゃどうしようもない。この先のことは俺たちだけでどうにかするしかないし、あんたも僅かな可能性を信じてこうして旅をしているんだろうからな」
武器に詳しい鍛冶屋のヴァラスの言う通り、所在がつかめないのであれば武器を探しようがないのだから、そのことについてはいったん忘れることにして一行は馬車に乗って出発した。




