443.命喰いの遺跡
彼の言い分に他の三人も納得する。
確かに鍛冶屋は冒険者たちの武器を入手するための場の一つであり情報交換の場所でもあるからこそ、そういった場所で働いていれば自然と外の情報が耳に飛び込んできても不思議ではない。
だったら話は早いので、ガルクレスとヴァラスはその遺跡について今まで手に入れている情報を元に話し始めた。
「ええと……バルトクス遺跡はそんなに広い遺跡じゃない。ただし聞いた話によれば、そこは「命喰いの遺跡」として厄介なトラップがあるそうだ」
「何だその大層な名前は……」
誰が何を思ってそんな別称を遺跡につけたのだろうかと思ってしまうルギーレだが、話の続きを聞いてみるとそれはあながち間違いでもないらしい。
「それがだな、その遺跡は元々大きな湖の中に沈んでいた遺跡で、数十年前に突然この世界に出現したらしい。だがその遺跡に踏み込んだが最後、生きて戻って来た人間は今までで百人にも満たないって話だ」
今までその遺跡に踏み込んだ総員数によっては結構戻って来ている様な気もするが、その踏み込んだ調査員や冒険者たちによれば異口同音でこんな話がもたらされている。
「そこに踏み込んだら、時間が経つと共に足元からじわじわと水が上がって来るらしい。気づいた時に引き返した奴らだけは生き残っているんだが、その水が上がって来るのを気にしないで踏み込み続けたら、最後には全員が溺死してしまったらしいんだ」
「何で溺死したって分かったんだ?」
「戻って来なかったからさ。何日経っても何か月経っても何年経っても。一説によれば湖の底に魔物が潜んでいてその魔ものが自分の栄養分として踏み込んで来る者たちをエサにする為に水を使って引きずり込んでいるって説もあるらしいんだが、湖の底を調べても何も出なかったそうだ」
ガルクレスとルギーレの会話をそばで聞いているレディクも身震いする。
「湖の底にも何もいないってなると、その遺跡そのものが意思を持っているってことか?」
「だとしたら怖いね……でも、その遺跡を隅々まで調べられた者がいないって話なら挑戦し続ける人がいるのも分かる気がするよ」
命喰いのバルトクス遺跡は、帝都メルディアスから西に向かって進み続けておよそ二日。
その遺跡の近くに小さな町があるのでそこで体力を回復したり、遺跡調査への準備を整えたりする冒険者が非常に多いので、自分たちもそれに倣おうというのがガルクレスの提案だった。
「じゃあ、その町ならドラゴンの情報も手に入るか?」
「ああ、そういえばあんたの求めているその情報も手に入れなきゃな」
だが、ルギーレからはドラゴンの情報のみならずまだ欲しいものがある。
「それと魔晶石も調達したい。その遺跡では何が起こるかわからないだろうからな」
「魔晶石だな、分かった」
そう、魔晶石を自分で手に入れてしまえば国外で待っているメンバーたちにも連絡が入れられるし、今までどこに行ってしまったのかの手掛かりが全然つかめていないマルニスとセルフォンたちに再度連絡を入れてみることも可能だ。
本当にマルニスとセルフォンとの連絡がつかないというのはおかしいので、どちらかといえばこの二名に対してさっさと連絡がついてほしいと思っているルギーレ。
(まさか出られないような状況になっているってことなのか? セルフォンは伝説のドラゴンの中の一匹なんだし、そうそう負けるような相手がいるとは思えねーんだがな……)
しかし、物事には万が一というものがある。
それを今ここでいろいろと考えても、結局答えは出ないだろうとルギーレが考え始めると同時に、今までのこのアーエリヴァでの経緯を思い出してしまった。
(何だかここに来るまでに相当バタバタし過ぎてるし、俺は本当にこの国から出られるのかも分からないしかなり疲れた……)
帝都で宿屋の部屋を取ったのは良かったが、考えてみればその部屋で一泊もしていないことを思い出したルギーレは強い睡魔に襲われ、馬車の壁に寄り掛かる形で意識が闇に沈んで行った。
馬車の中で眠ってしまったルギーレが目を覚ましてみると、既に陽は高く昇っており馬車の中には誰もいない状態だった。
(あ……寝過ぎた……)
自分はよっぽど疲れていたんだろうかと思いつつも慌てて起き上がり、馬車の外に出てみたその瞬間ルギーレの鼻を香ばしい匂いがくすぐった。
「おお、ようやく起きたんだな」
「そろそろ朝飯だぞ」
外ではルギーレ以外のメンバーで焚き火を使って朝食の準備が進められており、丁度いい時間に起きたらしい。
「ああ……そうか、なら俺も頂こうかな」
今の所はあのギルドの追っ手の姿も見えないし、さっさと朝食を済ませてその遺跡近くの町まで行ってしまうプランを立てている一行だが、その中にふとルギーレは見慣れぬ顔があることに気がついた。




