442.西へ
「なっ、何であんた等がこっちから出て来るんだ!?」
自分が地下水路の出入り口を駆け抜けてきたのはルギーレを導くためだったから……という理由がある自分はまだしも、彼ら二人はなぜここを通って現れたのだろうか?
その理由は、茶髪の男の横に立っている小柄な金髪の男の口から語られる。
「ああ、この人とは街中で偶然遭遇してね。君たちが宿屋で騒ぎを起こしたって話を聞いて一緒にその宿屋に向かったんだ。でも、その途中でギルドの人たちが誰かを追い掛け回しているって話が耳に入ったから、もしかしたら君たちが追いかけ回されているんじゃないかと思って彼に話を聞いた」
そうしたら地下水路がどうのって話を聞いたから、そこを通って手近な出口から出てみたら、偶然ルギーレとガルクレスにこうして出会った……ということらしい。
偶然とはいえこうして再会できたのは捜しに行く手間が省ける結果になったので、この騒がしい帝都から退散するべく四人はガルクレスが用意したという馬車に向かって歩き出した。
その途中で、この初対面の男二人について聞いてみるルギーレ。
「そういえばあんたたちは何者なんだ? ガルクレスの知り合いだと聞いているんだが」
「そうだ。私はヴァラスだ。このメルディアスで鍛冶屋を経営している」
「僕はレディク。この街の貴族さ」
ヴァラスという鍛冶屋は槍使いであり、金髪のレディクと名乗った男は魔術師だというのだが、その内レディクから気になる話を聞くことができた。
「そういえば、ここ最近でこの国の騎士団に外部の人間が指示を出すようになったっていう話を聞いていてね」
「外部の人間?」
「うん。何とかのアドバイザーって肩書きを持っている人らしいよ。それでそのアドバイザーが騎士団長とか皇帝にいろいろと指示を出して、その結果古代のドラゴンの遺跡とやらが見つかったって話だもん」
「え……そうなのか?」
そのアドバイザーとはいったい何者なのか?
そしてそれが本当だとしたら、まさかこのアーエリヴァで起こっている出来事はアドバイザーとやらの主導によるものではないのだろうか?
ルギーレは余りシワの多くない頭でそう考えるが、その話を横で聞きながら歩いていたヴァラスからはもっと信じられない話が出てきた。
「それは私も聞いた。それからそのアドバイザーという人間は何人かの部下を連れていて、自分が開発したっていう新型兵器のお披露目もしようって話になっているらしい」
「新型兵器って何だ?」
「さあ、そこまでは私も知らん。しかしこれまでにないぐらいの超強力なものだというのは騎士団員からの噂で耳にしている」
ガルクレスもヴァラス同様仕事関係でその話は聞いたことがあるらしいのだが、彼も詳しいことは知らないのだという。
「その新型兵器ってのがお目にかかれてないのは気になるけど、もしかしたらあんたの探しているって灰色のドラゴンの話に絡んでくるかもしれないぜ?」
「灰色のドラゴン?」
「ああ。灰色のドラゴンをこの男は探しているらしい。俺にはよくわからねえけどな」
そんな話をしながら再び帝都の地下水路に入った四人は、運河を流れに逆らって上っていく。
そのルートで帝都メルディアスの外まで出て、出入り口の検問所から少し離れた場所に待たせておいた馬車に乗り込む四人。
だが、ここでルギーレがあることを思い出した。
「あれ……そういえば鉱山の町で最初にガルクレスと会った時、他にも傭兵の仲間がいた気がしたんだが?」
ガルクレスはもっと大人数で行動していた記憶があるルギーレだが、当の本人は気にしなくていいと告げる。
「ああ、あのメンバーは俺たちと同じ依頼を受けただけの一時的なパーティの仲間だ。普段の俺は単独で行動しているんだ」
「そうなのか」
それなら……と納得するルギーレの横で、今度はヴァラスが口を開いた。
「話は色々聞いたんだが、各地にある遺跡をこれから回るんだろう? それで……その最初に向かう遺跡っていうのは西の方にあるバルトクス遺跡で合っているか?」
「ああ、そうだけど……遺跡の名前までは話していないはずだけどどこで聞いたんだ?」
遺跡を巡るとはいったが、その行き先まではガルクレスも含めて自分以外に詳しく話していないはずなのに、なぜ彼は行き先を知っているのだろう? と疑問に思うルギーレ。
それに対して、彼は仕事の都合で彼なりの情報網を持っているのだと答える。
「私は国中から……というよりも世界中から武器を作ってほしいと冒険者が集まる鍛冶屋のチェーン店を経営しているからな。色々な店舗を回って日々冒険者たちの会話に耳を傾けていればそれなりの情報は入ってくる。そしてここからまず西に向かうとすれば、その向かう遺跡で最も可能性が高いのがバルトクス遺跡しかないからな」




