441.ドラゴンに会いたい
「なるほどな、結構俺の格好とかの情報が出回っているのか」
「ああ。だからあんたの背格好を見て旅で使えそうな服を選んできたかったんだが……既に服屋は閉まっている上に、服を着替えても意味がないことが判明したんだ」
真顔でそういうガルクレスに、ルギーレは思いついたことを口走る。
「結局俺の顔が、あのカイン様とかいう奴にバレてっから意味ねえと?」
「ああ。結局は一時凌ぎにしかならない。それにあんたの顔もカインにバレてしまっているから、フードでも被っていないとまずいかもしれないな」
ガルクレスはそういうものの、それでも少しでも変装しておけば追跡から逃れられる確率はアップできそうな気がするルギーレ。
「それでもいい。俺は結局逃げられれば問題がないし、変装できるならしておきたい」
「分かった。じゃあさっさとこの帝都から出て最初の遺跡に向かおう。それなりの情報も騎士団に流してきたから、奴等は当分の間そっちを目指すだろうからな」
「ああ、俺が東へ向かうっていう話だろう?」
情報収集を終えて戻って来たガルクレスからその話も既に聞いているルギーレは、自分たちがこの先に取る行動をある程度予測できる。
「つまり、偽の情報を流して俺たちが東へ向かったと思わせておいてその裏をかき、別の方角へ向かうのか?」
「そうだ」
偽情報を流して敵をかく乱するのは戦術においても当たり前の作戦だが、こうやって自分が逃走する為に流してくれるのはありがたかった。
そのありがたがっているルギーレを見て、やや心配そうな口調でガルクレスが尋ねる。
「でも、本当に良かったのか?」
「何がだ?」
「遺跡を巡る旅をするって選択だよ。例えあんたがその遺跡の封印を解いてその奥にあるっていうアイテムを手に入れたとしても、それがあんたの探しているドラゴンとやらに繋がるものだとは限らないんだぞ。それにそのアイテムは俺と同じギルドの連中が狙っているんだし、そこまでのリスクを負ってまで行く意味があるのか?」
心から本心でそう口をついたガルクレスの疑問だったが、ルギーレは間髪入れずに力強く頷いて返答する。
「意味はある。それを集めてドラゴンたちに会える可能性に繋がるんだとしたら行ってみる価値はあるだろう。だが最初からチャレンジもしないで諦めるのは嫌だし、そのアイテムとやらを俺と同じく狙っている連中がいるんだったら先を越されない内に回収したいからな」
それを集めてもドラゴンに会えないんだったら、また別の方法を探すだけ。
俺は何としてもドラゴンに会いたいんだからな、とハッキリと迷いのない口調でそういうルギーレに、ガルクレスも諦めがついたらしい。
「わーったよ。そうまでいうなら俺は止めねえ。だったらさっさと出入り口から出て西に向かうぞ。馬車を用意してあるからそれに乗って行こう」
「もう用意したのか」
やけに用意がいいんだな……とガルクレスに対して思うルギーレだが、ここでガルクレスは忘れていたことがあるのを思い出した。
「あっ、そういえばあいつと合流しなければ!!」
「あいつ……って、誰だ?」
「俺の昔の知り合いだよ。そいつも色々と騎士団やギルドに対しては不信感を抱いている人間なんだ。できればそいつも一緒に連れて行きたい」
色々と騒ぎがあったので今の今まですっかりガルクレスのことが頭から抜け落ちていたのを悔やむガルクレスだが、帝都から出てしまう前に気がついて良かったともいえる。
「じゃあ逃げる前にその人間に会いに行くか?」
「そう……してくれると非常に嬉しい」
自分だってマルニスとセルフォンに会いたいのはやまやまなのだが、実際に何も手がかりがつかめていないとなると会いようがないのである。
セルフォンのあの大きな図体で飛び回っていたらすぐに見つかるだろうと考えているのだが、向こうも向こうで何がどうなっているのかわからない状況だ。
通話用の魔晶石を買うタイミングも結局なかったままなので、向こうに連絡できない状況のままここまできてしまったルギーレ。
(西に行ったら魔晶石を買って、速攻でルディアたちやマルニスたちに連絡だ!!)
しかしまずはその知り合いとやらの場所に行く展開になってしまって、ガルクレスには見せられないが焦りの色が浮かぶルギーレ。
だが、そんな彼らの後ろからいきなり声がかかった。
「あれ、君はこっちにいたのか!」
「っ!?」
聞き慣れない深みのある男の声が響いた方に振り向けば、息を切らしながら現れた二人の男の姿。
一人は茶髪に、赤い模様が入っている黄色いシャツを着込んだやや中年の中肉中背の男。そしてもう一人は金髪でいかにも貴族みたいな格好をしている若い小柄な男。
ルギーレにとっては初対面となるそんな男二人が、地下水路の出入り口から現れたのだった。
人の噂をしていればその張本人が目の前に現れる、とはルギーレもよく聞くエピソードだが、実際にそんな展開がこうして自分の身に起こるとなかなか驚きを隠せない。
だが、驚きを隠せないのはガルクレスも同じだったらしい。




