440.他人任せの情報収集
ルギーレのまっすぐな意志の強い瞳に、ガルクレスは観念して再び溜め息を吐いた。
「……分かったよ。俺たちもしばらくは別の任務でこの国に滞在するからあんたに協力しよう」
こうしてガルクレスの協力も得られることになったのだが、問題はそのアイテムがあるといわれる古代の封印の場所だ。
一種の指名手配をされている状態の自分がこの帝都の中をウロウロと歩き回って、情報を集めて無事に戻ってこられる訳がない。
そこでさっそくガルクレスに協力してもらうことに。
「じゃあ、さっそくなんだがその古代遺跡の情報を集めてきてもらいたい」
「分かった」
ガルクレスも今までのやり取りでその辺りの事情は察しているのだろう。
ここで待っていろ、と動かないように指示をした上でルギーレをその場に残し、彼は夜の帝都の雑踏の中に姿を消した。
そんなガルクレスがやってきたのは、ルギーレが騒ぎを起こしたあの宿屋の一階にある酒場。そこにいる騎士団員たちを相手にして、色々と自分の機転を利かせるつもりで情報収集を開始する。
「あー、ちょっと聞いていいか?」
「む……何だ?」
騒ぎの後片付けや状況確認、現場検証といった職務を遂行している帝国騎士団員たちに話し掛けたガルクレスに、一人の騎士団員が対応する。
「何用だ?」
明らかに部外者という出で立ちの男を止めるのは、この帝都を護っている騎士団員としては当然のこと。なのでそうした質問も出てくるのだが、呼び止められたガルクレスは涼しい顔をしたまま答え始める。
「ああ、俺、ここで騒ぎを起こした奴が東に向かうのを見たんだ。だからそれを伝えにきたんだ」
「何だって?」
腕を組んで考え始めた騎士団員に、その様子を見ていた他の騎士団員やギルドの傭兵たちが合わせて四人ほど集まってきた。
「何だ、何かあったのか?」
「ああ、何かこの男がここで騒ぎを起こしたっていう人間を見かけたらしいんだけど……」
どこか腑に落ちないという態度を示す騎士団員に、傭兵の一人がガルクレスに対して疑いの目を向ける。
「あんた、何だか怪しいな……?」
もちろんそういわれることはガルクレスもシミュレーションしているので、こと前に用意していた答えを出して反論する。
「俺が仮にそいつの関係者だったとして、こんな大胆にその男を追い掛けている者たちの所に真正面から来ると思うか?」
腕を組んだ、余りにも堂々とした仁王立ちの男に対して騎士団員と傭兵たちは顔を見合わせる。
「それに俺だって傭兵だ。ここに来たのはそれ以外の情報収集もあるんだよ」
ガルクレスは真顔で自信満々にセリフを続けるが、内心ではこのハッタリと出任せがいつ剥がれてしまうか冷や汗と変な汗が止まらない。
それでもうろたえる様子を全く見せず、さも事実であるかのように話すガルクレスに騎士団員たちと傭兵たちの緊張も若干緩んでくる。
「……それ以外の情報収集って?」
「俺だって傭兵の端くれだ。その男を捕らえた者には多額の賞金が出るっていう話を聞いたんだが、俺一人じゃ不安でね。だからその男の追撃を頼みたいのと男の情報をもっと詳しく教えてもらおうと思って」
そこまで言い切るということは、本当に傭兵として追撃作戦に参加するのかも知れない。
実際にその男には多額の賞金が掛けられている上で追撃の通達が出されているので、それが目的でわざわざでここまで来たのなら無碍に断って要らぬトラブルを起こす訳にも……と騎士団員と傭兵たちはガルクレスを近くのテーブルに座らせた。
「それで、男の情報を提供するのはいいがそれ以外の情報というのは?」
「あー、それなんだけどさ。この国には色々と遺跡があるらしいな。そこで古代の封印がされていて、奥に進めないっていう話を前に俺が聞いてね。そこに俺も挑戦したいんだ」
「ああ……君もそのクチか?」
騎士団員が尋ねると、ガルクレスは組んでいた腕を解いて紫色の頭をボリボリと掻きながら続ける。
「そう。俺も色々な国を回って傭兵家業をしているんだけど、金になりそうな依頼ばかりじゃないっていうのはよーく分かってる。だが何かしらのチャンスが転がっているんだったら少しでもそのチャンスにすがってみたくてな」
「そんなにいうなら場所を教えるから遺跡を見て回ってもいい。しかし……あんた一人で遺跡を回るのか?」
騎士団員の一人がそうガルクレスに尋ねるものの、当のガルクレスは首を横に振った。
「まさか。俺にだって傭兵の仲間はいるよ。ついでにその追撃要請が出ているって男を見かけたらそいつも捕まえて突き出してやるさ」
「だったら大丈夫だな。それで後はその男の情報か?」
二つもいっぺんに依頼をこなせるのか? と騎士団員たちは疑問に思うが、彼なりの事情もあるのだろうとすぐにその疑問を打ち消して問題の男の情報をガルクレスに伝え始める。
「ええと……それじゃ今から話すけどメモは取るか?」
「もちろんだ。しかし、そんなに多くの情報が入っているのか?」
「ああ。カイン様がいうにはかなり素早い男みたいだし、割と覚えやすい服装だったらしいからちゃんとその情報も届いている。後で手配書も渡そうか?」
「それは嬉しいな。じゃあその男の情報をいってくれ」
本当はその男に協力する為に、こうして情報がどこまで広まっているのかを調査しているんだけどな……とガルクレスは頭の中で思いながらメモを取り始めた。




