439.これから先の話
ルギーレがカインともう一人の男と戦いを繰り広げていたことも、地下道を通っていた時に本人から聞いているガルクレスは、そうなるとこれから先の話がどうなっていくのかを予想する。
「その二人が繋がっているということは、あんたに自分がやられてしまったことがカインを通してすぐにティレジュの耳に入るだろう。そうなればティレジュもそのカインには普段から協力を惜しまない姿勢をしているから、そう考えると騎士団員を動かしてあんたを捕まえに向かうことは見え見えだ」
「だからその裏をかく、と?」
ルギーレの疑問にガルクレスは頷く。
「そうだ。どうせこのまま帝都の外に出ても、あんたと俺だけじゃ逃げ切るのはかなり無理がある。カインとティレジュは自分のツテでギルドの仲間たちに通達を出し、騎士団の人員に手配書を配って動かせばすぐに包囲網が敷かれるだろうな。だからその裏をかき、俺の知り合いの信頼できる男にあんたがこの帝国から脱出できるようにしてもらうんだ」
しかし、帝国から脱出するのは確かにそうだとしてもルギーレはまだやるべきことがある。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はまだやることがある」
「やること?」
「ああ。こっちに灰色のドラゴンが飛んできたっていうからその情報を集めにせっかくここまできたんだ。なのに着いたばっかりでもう逃げるしかないのか?」
せっかく帝国で一番の広さを誇っている帝都までやってきたというのに、何も情報が得られないまま脱出してしまうのはかなり損した気分になる。
その話を聞き、ガルクレスはしばし考えてから重たい口調で話し始める。
「……それなんだが、この帝都メルディアスでその話を持ち出したら厄介なことになるぞ」
「へ?」
自分が伝説のドラゴンたちと繋がりを持っていることは、この国に入ってからは誰にも話していないはずなのでバレるわけがないと考えている。
しかし、それよりももっとまずいことがあるのだろうかと首を捻るルギーレ。
そんな彼を見て、ガルクレスは更に重い口調になった。
「実はだな……その、この帝国には三つか四つだったかの遺跡が存在しているんだが、その遺跡には古代の封印が魔術で施されているらしくて。で、その古代の封印を解いて先に進んだ者が手にすることのできるアイテムがあるらしい」
「それとドラゴンと何の関係があるんだ?」
「その遺跡っていうのが……どうやらこの世界に伝わっている、人間の言葉を理解できるという伝説のドラゴンたちが造ったものらしいんだよ。んで、そのアイテムを騎士団とギルドの連中が手を組んで探しているんだが、封印が解けなくて調査がなかなか進まないらしい」
この話を聞いたルギーレは、すぐさま頭の中で自分やルディアたちが出会ってきたドラゴンたちのことを思い出していた。
このアーエリヴァを看視しているのはドラゴンたち最年長のグラルバルトなのだが、となるとこのアーエリヴァに危機が迫っているということを彼らも知っているのだろうか?
心の中に不安を覚えながら、ルギーレはガルクレスの話の続きを聞くために耳を傾ける。
「それもこれも俺のその知り合いが調べたところによるんだが、その騎士団とギルドの連中で古代の遺跡でアイテムを集めて回る部隊を編成して、各地に派遣しているそうだ」
「と、すると……」
「もしかしたら、そのアイテムとやらがあんたが探している灰色のドラゴンとやらの手かかりになるかも知れない。だが……それは同時に騎士団とギルドの連中を更に敵に回すことにもなるだろう」
かなり重苦しい口調で話し終えたガルクレスだが、ルギーレの心は対照的に軽くなった。
「そ、そうか……それだったら俺はそのアイテムを集めに遺跡を回りたい!!」
目を輝かせてそう宣言するルギーレだが、ガルクレスはハァーッと溜め息を吐いてやれやれと首を横に振り、額に右手を当てる。
「おい、俺の話を聞いていたか? あんたは騎士団やギルドの連中に狙われているんだぞ?」
遠回しに、さっさとこの国から逃げ出すべきだとルギーレに忠告するガルクレスだが、ここまできてしまったためにルギーレも負けない。
「それはわかっている。だが、俺がこの国からどこか外国に出てしまえば追われる理由も無くなるだろーよ。俺だっていつまでもあいつらに追いかけ回されるのは勘弁して欲しいからな」
「まあ確かにそれはそうだが、どうしてそんなにドラゴンを追いかけようとするんだ?」
「……男のロマンって奴さ」
カッコつけて髪をかきあげながらそう言ってみたルギーレだったが、ガルクレスの反応はこれだけだった。
「何だかよくわかんねーや」
内心では「恐ろしくダッセーこと言ってやがるぜこいつ!!」と呆れながら叫んでいるガルクレスだったが、理由がどうあれ彼が引き下がらないのであれば、彼を見張っていなければならないだろうと考える。
色々ときな臭いことはこののルギーレから感じるし、自分もドラゴンの秘密を追う者の一人である以上は、一緒に行動しておいた方が何かと不都合が少なくて済みそうだからである。




