438.1vs2
先に自分の元に辿り着いた痩せ身の男の腹に、先制で鉄拳を入れて怯ませる。
次にカインが横に回りこみつつ槍を繰り出してきたが、その槍で自分の相方を傷つけてしまっては困るので、彼はこの接近戦の状況ではなかなか思うように振れない状況だった
一方のルギーレは痩せ身の男を力任せに突き飛ばしつつ、カインの腹に左の前蹴りを入れて怯ませることに成功。
痩せ身の男がその間に立ち直ってシャムシールの斬撃を何発か繰り出すが、ルギーレは上手くかわして一気に痩せ身の男の首を取って羽交い絞めにする。
「ぐっ……うぐ!?」
全身全霊の羽交い絞めに痩せ身の男がジタバタともがくのを見て、カインはルギーレに槍ではなく今度は右の拳を繰り出したが、ルギーレはそれを痩せ身の男の顔で上手く防御。
「ごは!」
「な……っ!?」
顔面に拳が当たった瞬間に痩せ身の男を解放し、その拳を仲間に入れてしまったことで動揺して少し隙ができたカイン。
そんな彼にはお返しとばかりに、勢いをつけるために小さく飛び上がりつつ拳を彼の顔へ叩き込むルギーレ。
「ぐお!」
痩せ身の男も再び立ち直ってルギーレに向かうが、そんな痩せ身の男をカインの方に突き飛ばしてルギーレはまた二人と向かい合う。
「くっ……」
このままでは勝てないと悟ったのか、カインはとうとう痩せ身の男に攻撃が当たるのも厭わずに、全力で槍を振り回してルギーレに向かう。
だが、その槍を振るった腕をルギーレはカインの懐に飛び込んで槍ごと防御しつつ、彼の顔面に頭突きして後ろに突き飛ばす。
その後ろからは痩せ身の男も向かってきたが、彼の懐に飛び込んで脇腹に拳、そして続けて顔面に拳を入れて彼を昏倒させた。
だがその間にルギーレのの背後ではカインが立ち直ってきたので、ルギーレはそのカインの攻撃をかわして一気に懐へと飛び込んでカインの腹に右の膝蹴り。
そのまままた後ろに突き飛ばしつつ、カインの顔面に拳を突っ込む。
「あがあっ!?」
「はぁ……」
これで二人とも昏倒させることに成功し、安堵の息を吐いたルギーレは増援が来ない今の内に逃げなければ……と思い、自分が通ってきた水路の中へと再び足を踏み入れる。
だが、ここで思わぬ人物が彼を導く。
「おい、こっちだ!!」
「えっ?」
いきなり聞こえてきた声の方向に顔を向ければ、そこには何と……。
「あ、あれっ!? 何であんたが!?」
「説明は後だ!! さっさと俺についてこい。安全な場所まで案内するから!!」
まさかの人物に出会うシチュエーションはさっきと合わせてこれで二度目だが、今回出会った人物は自分にとって害のない人物だと思っているルギーレ。
その人物……先ほど思わぬ形で別行動になってしまったはずのガルクレスに導かれる形で、ルギーレは地下水路を通り抜けてメルディアスの別の場所に繋がる出入り口へと駆け抜けていった。
「……よし、ここまでくれば一先ず大丈夫だ」
地下水路を走り回り、帝都の中に再び出る別の出入り口の前に辿り着いて息を整える二人。
しかし、ルギーレが考えている逃走経路とはまた違った。
「おい……ちょっと待ってくれ。何で帝都の外に出ない? 帝都の外に出てしまえばいくらでも逃げ道があると思うんだが」
ギルドの本拠地、そして帝国騎士団の団員がそこら中にいるこの帝都から早く逃げてしまえばそれだけアドバンテージが得られるのではないかと考えているルギーレだが、ガルクレスはその裏をかく作戦を取っているのだといった。
「そこがポイントなんだ。帝国騎士団の連中とギルドの連中が繋がっているのは知っているか?」
「えっ……いや、全然知らん」
その二つの団体は繋がりがあっても確かにおかしくないのだが、まさか本当に繋がりがあるとは……とルギーレは愕然とする。
それについて説明する、と出入り口から出て物陰に隠れたガルクレスはある方向に向かって指差しをする。
「向こうの方に騎士団の総本部があって、その先に皇帝が住んでいる城がある。アーエリヴァ帝国のギルドの本部は騎士団の総本部と隣接しているから、文字通り繋がっているんだ」
「あ、繋がっているって建物の立地的な意味……」
「それもあるが……ギルドトップのSランクの冒険者であり帝国の英雄でもあるカインの活躍を、アーエリヴァ帝国騎士団の元団員であるティレジュが聞きつけたことでその二人は協力しあっているんだ。カインは今は騎士団に興味がないから騎士団員になってほしいというティレジュの誘いを断る代わりに、優先的に依頼を回してくれるようにいつも交渉しているらしい」
「ははあ、なるほどな」
裏取引みたいなものなのか、あるいは彼のその冒険者という立場を利用した正式な交渉なのかは分からないが、それでも他の冒険者から見れば羨ましかったり恨まれたりしてしまう切っかけになるのかも知れないと考えるルギーレ。
「で、その二人が繋がっているのは分かったがそれとこの話がどう関係があるんだ?」
急かすようにガルクレスに説明を求めるルギーレに、自分がなぜこのようなルートで逃げてきたのかを交えてガルクレスは説明を始めた。




