434.探り
その男は連絡を待っている。
何か変わったことがあればいつでも連絡をしてもらえるように、シュアが開発したとされる携帯用の魔術通話機を持っているのだ。
その通話機を手元に置いたまま夕食を摂っていた彼の元で、通話機の呼び出し音が鳴った。
「ん……俺だが?」
『俺だ。色々とキナ臭い情報が出て来たんで報告するぞ』
「分かった。記録するものを用意するから少し待て」
通話機の向こうから聞き覚えのある声が響き、その男は手元の料理を口に運ぶのを止めていつでも記録出来るように用意しておいた紙とペンを手に取った。
「よし、報告してくれ」
電話の向こうからの報告は余り長いものではなかったが、それでもその通話機で通話している男がかなりの驚きを受け取るのには十分な内容だった。
「ほう……不思議な剣を持っている男がいただと?」
『ああ、間違いない。その男は自分が傭兵だと言っていたのもハッキリ覚えている』
それを聞き、男の口元に微笑が浮かぶ。
「分かった。だったらその男は帝都に向かったんだな?」
『そうだ。俺たちも後を追うつもりだ』
しかし、通話を受けた男からは通話機の向こうの男に質問があるらしい。
「待て。お前は何処からどうやって俺に通話をかけてきている?」
『俺か? 俺は今鉱山の町ゴルトベルクからお前に通話してんだ。ここにどうやら何かしらの手掛かりがあるみたいなんだが……まずいことになってる』
「まずいこと?」
通話を受けた男の方は話の流れがまるで掴めないと言った口調なのだが、ともかく通話機の向こうの男は最後まで話をしてみようと考えた。
『ああ。鉱山の町まで来たのはいいんだがな、やっかいな奴らがいるのが分かって迂闊に捜索できねえんだよ。それを知らせようと思ったんだが……お前の方こそどこにいるんだ?』
「俺は……」
通話機の向こうの男に質問された男が、その通話機に向かって今までのことをかいつまんで話すと、通話機の向こうの男は少し考えてプランを変更した。
『……そうか、なら落ち着いたらこっちに来てくれ。いや……待てよ、帝都で合流した方が早いな』
「分かった。それじゃ何か目印になる場所を決めておこう」
『街のシンボルみたいな場所があれば、そういう場所の方がよさそうだが』
「あー、だったら黒曜石の神殿って場所があるからそこにしようぜ。それなりに目立つ建物だから帝都の人間に聞けば場所はすぐに分かるが、帝都の入り口からは確か距離があるから早めに来てくれよ」
こうして合流地点は確保出来たのだが、通話機の向こうの男からこんな質問が出てきた。
『そういえばあいつは一緒にいるのか?』
「あれっ、そっちが一緒じゃないのか?」
『ん?』
「え?」
通話機越しの二人の男はこの瞬間、どうやら話が噛み合っていないことがわかって不安を覚える。
『おいおいちょっと待て、それならあいつはどこに行ったんだ?』
「俺に聞かれても困るぜ。だったらどこかで単独行動しているんじゃないのか?」
『そう……だとしたら、どっちにしても先に帝都に向かった方がいいか?』
「ん……そうだな」
これはもう少しプランの変更が必要なようである。
自分たちの仲間の行方が分からないとなれば彼の行方も当然捜さなければいけないし、そもそもその男とは昔からの付き合いなので色々と情報交換もしなければならない。
どうしたもんかな……と頭を抱える通話を受けた男だったが、通話機の向こうの男にはその男の行きそうな所に一つだけアテがあった。
『もしかしたらなんだが……あいつは東の方に妙なものがあるって噂をキャッチしたって言ったから、俺たちと離れて東に向かったんじゃないのか?』
「東か……分かった、それじゃ俺は帝都には向かわず、東の方に先に向かった方がいいか?」
『ああ、それならそれでいいな。こっちは俺たちだけで何とかなりそうだし』
プランを大きく変更し、この国の中で別行動をすることに決めたこの二人の男。
そしてこの二人が最も気にしているのは、その不思議な剣を持っているという男の行方である。
「で……その不思議な剣の男ってのはどんな背格好とか分かるか?」
『ああ、実際に近くで見ているからな。年齢は二十代前半かな。黄色いロングコートに茶髪の男だ』
しかし、その格好もいつまでその男がしているか分からない。金さえ持っていれば服を買い、それでいくらでも変装が出来てしまうからだ。
おまけに時間が経てば経つほど足取りを追うのが難しくなり、結局は男の隣にでもいない限り居場所が分からない……という状況になってしまうだろう。
「ふむ……それならその男の捜索は任せるぞ。また何か分かったらすぐに連絡をくれ」
『分かった。そっちも何かあれば』
通話はそこで終了したが、厄介なことが増えてしまった……とため息を吐く男。
(くそっ、俺たちの計画にこのままだと支障が出てしまうかも知れないな。だとしたらその不思議な剣を持っている男をあいつらがしっかり捕まえてくれるのを信じるしかないだろう)
ここはひとまず目の前の食事を平らげるのが最優先だと思い、男は再び食事を摂り始めるのだった。




