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433.タチの悪い奴

 ガルクレスとの旅路で、幾度か盗賊や魔物たちとの戦いを挟みつつ再び帝都への道を馬で進み、もう一度夜を途中で明かした次の日の夕方にやっと帝都メルディアスまで辿り着いた。

 その経緯で、ルギーレには一つだけ気になっていたことがあった。


(あれ……そういえばこのガルクレスって奴、俺の素性について全然聞こうともしてこなかったけどそれでいいのか……?)


 傭兵の世界では、お互いの素性もよく知らない者同士が組むことが当たり前である。

 ルギーレがかつて所属していたパーティーのように、幼馴染みだからとか付き合いが長いからという理由でお互いの過去だったり生い立ちだったりを知っている方がなかなか珍しいのが傭兵の世界。

 安易に個人情報をバラしてしまえば、それだけで実は危険な状況に陥ることだってあるからだ。


(この前まで味方だったはずの傭兵が、次に会ったときには敵になっているってこともありえっからなあ)


 だからこそ安易にお互いのことをベラベラ喋るのは危険だったりする。

 しかし、ガルクレスに対してはこちらが強大な魔力を持っているというからこそ、少しはこちらのことを聞いてきても良いと思うのだが全然聞いてこなかった。

 それをルギーレは不自然に感じてしまうのだが、向こうにもそれなりの事情があるのだろうと深く考えずにいた。


「あれが帝都か」

「そうだよ。あれがメルディアスだ」


 そんな関係のままのルギーレとガルクレスの視線の先には、なかなかに大きくて高い威圧感たっぷりの城壁で守られている街があった。

 そのスケールの大きさはまさに「帝都」と呼ぶにふさわしいのだとルギーレは思うが、ガルクレスのいう通りその街の入り口では人々が行列を作って並んでいる。

 馬車も時折り列に並んでいるのを見ると、確かに検問が厳しく行なわれているらしい。


「ああ、確かにあれじゃ俺は中に入れそうにねえな」

「だろ? だから裏から入ってくれよな」


 そう言いながらガルクレスが指を差す方向には、小さな船が二隻すれ違うのがやっとぐらいの細い運河が帝都に向かって伸びている。恐らく、あのスケルトン軍団を倒した鉱山の方からずっと流れてきているのであろう。


「ちょっと逆戻りすることになるんだけど、この道を上流に向かって道なりに進んで行けばやがて船の停泊所が見えるはずだぜ」

「分かった。後はそのタチの悪い奴に会わないように気をつけたいね」

「そう祈ってるよ。じゃあ無事に帝都に辿り着いたら、街の中に魔術師たちが集まる黒曜石の神殿って場所があるからそこで落ち合おうか」


 今はまだ夕方なので多少忍び込む時間には早いかもしれないが、そこは誤差の範囲内ということでルギーレは足早にその停泊所へと向かう。

 しかし、どうやらガルクレスの言っていた噂は真実だったらしい。

 フードを被って停泊所で空を眺めていた大柄な男が、ルギーレが近づいて来たその足音を聞いて立ち上がる。


「おい、ここの小舟を使いたいんだったら有り金と金目の物を全て置いてけよ」

「……例え利用料金だとしても、それはぼったくりじゃねえのか?」


 明らかに法外な値段を請求する男に冷静にルギーレが突っ込むが、男も引き下がらない。


「払えないなら痛い思いをしない内に帰るんだな」

「そうか。だったら無理にでもここの舟を使わせてもらうぜ」


 そういってルギーレはフードの男とのバトルをスタートさせる。

 お互いにまずは相手の様子を窺いながらのにらみ合いだが、先に痺れを切らして愛用のバスタードソードを振って先に飛び込んで来たフードの男を避けたルギーレに、思わぬ衝撃が襲いかかってくる。


「ぐわ!?」


 フードの男が使ったのはバスタードソードではなく、自分の大柄な身体を活かしてルギーレにタックルをかましたのだ。

 しかしルギーレもこのまま黙ってやられる訳にはいかない。

 素早く横を見れば大き目の石が転がっており、それを引っ掴んでフードの男の顔にぶつける。


「ぐぅ!?」


 フードの男が怯んだところで、ルギーレは素早く立ち上がって飛び膝蹴り。更にフードの男が怯んだところで股間を蹴り上げた。


「がぁ!」

「おりゃあ!」


 もう一度怯んだフードの男の肩を掴んで、勢いのまま膝蹴りをするルギーレ。そのまま間髪入れずにフードの男の顔目掛けて右と左のパンチを入れ、回し蹴りを繰り出す

 その蹴りはフードの男の腹に食い込み、男は後ろの岩壁に吹っ飛ばされる。


「おらあああああっ!!」


 ルギーレが追撃しようと向かってくるので、フードの男は咄嗟に懐の短剣を手に取って投げつける。


「うおっ!?」


 そのままルギーレが驚きながらもそれをレイグラードで弾き飛ばすが、それによってできた隙に彼の腹にお返しの前蹴りを繰り出す。

 これには流石のルギーレも反応できず、モロにそのフードの男のキックを食らってしまう。

 そうして地面に倒れ込んだルギーレの腹に、フードの男は更に蹴りを入れる。


「ぐぁ!」


 そのままフードの男は間髪入れず、自分のバスタードソードを大きく頭の上に振りかざす。


「おりゃあああああ!」

(やべ……!)


 力を振り絞って何とかそれを避けるルギーレ。

 そのままフードの男に足払いをかけて倒し、馬乗り状態で殴りつける。


「おらおらおらああ!」

「がっ、あが……うぐ!!」


 なすすべなく男は殴られ続け、その男の襟首を掴んで強引に立たせるルギーレ。

 そして最後に、ルギーレはレイグラードの柄を握ったままの右の拳を男の顔面に叩き込んだ。


「があ!?」

(いってえ!)


 かなりの衝撃で殴ったためにルギーレの右手にも痛みが走る。

 一方でルギーレの渾身の一発を受けたフードの男はそのまま力尽きて川に落ち、ゆっくりと流されていってしまった。

 とにかくこれでタチの悪い男を退けることに成功し、ルギーレは舟を拝借して川を下って帝都メルディアスを目指し始めた。

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