430.金稼ぎ
「で……その仕事の内容ってのはどんなものなんだ?」
「ああ、それはこれだよ」
ガサゴソと男が懐から取り出したのは、ギルドの仕事を記載している依頼書だった。
「えーとだな、仕事の内容は薬草の採集だ。明日の朝一番で向かうこの仕事は一見簡単そうに見えるんだが、採集場所が厄介なんだよ」
「厄介って?」
ルギーレがそう聞いてみると、男は遥か向こうを指差した。
「あっちの方に鉱山の洞窟があるんだ。その奥地に生えている希少種の薬草を採集しなければならないんだが、そこには魔物の大群がウジャウジャいるんだよ。それをいちいち相手にしていたらとても採集まで手が回らなくてさ」
「そうなのか? 割と大人数なのに?」
「ああ。だからその採集をあんたにやってもらっている間に、俺たちが周りの魔物を引きつけておく。それで薬草を採取したらさっさと逃げる。報酬分からもちろんそれなりの分け前もやる。俺たちに魔物の相手は任せてくれればそれでいい」
あえて危険を冒してまでこのギルドの連中に付き合うべきなのか悩むルギーレだが、その場所を見るだけならまだ引き返せる。
なので一旦了承し、問題のその洞窟を目指すことにした。
そして、その同行についての条件も幾らかルギーレから出させてもらう。
「いいけど……いくつか条件がある」
「条件?」
「ああ。まず俺が危険な目に遭わないって約束してほしい。初めて踏み込む場所だから不安だからな。それから分け前はきちんと貰うぞ。最後に……俺を見捨てて逃げるような真似だけはしないでくれよ」
自分でもかなり失礼なことを言っているのはわかっているが、ギルドの連中というだけあって何をしでかすかわからない。
そのルギーレの条件に対して、男は苦笑いを浮かべて答える。
「分け前は問題なくあんたにも渡すよ。それにせっかく協力して貰うんだから見捨てないし、危険な目に遭いそうだったらあんただけでも逃がせるようにするよ。でも……絶対に危険な目に遭わないっていうのは約束できないな。魔物がたくさんいる場所に踏み込むんだから。俺たちからはそれしか言えない」
「……わかった」
こうして翌日の朝一番に魔物がたくさん闊歩するというその洞窟に向かうことになったルギーレだが、それでもまだルギーレの頭の中からはモヤモヤが消えなかった。
(怪しい……いつでも逃げ出せるようにしておこう)
その仕事に協力してくれる見返りとして昼飯と夜飯と宿を提供してもらえることになったルギーレは、朝一番でこの町にあるギルドの支部の前でその冒険者たちと合流した。
そしてそのまま依頼を遂行するために町から出て近くの洞窟に向かう。
元々は鉱山の出入り口の一つとして利用されていたらしいのだが、魔物がいつしか棲みつくようになって定期的に駆除が行われている。
しかし、その親玉らしき魔物に関しては実はまだ見つかっていないらしい。
魔物の異常繁殖が原因で定期的に駆除が入るようになったのだが、その親玉を潰さない限りいつまでもそれをやり続けなければならない、というのが悩みの種だとも紫髪の男……ガルクレスと名乗った彼から聞かされた。
「とにかく、その親玉が出て来るような事があればさっさと逃げるだけだ」
ガルクレスはそう言って、愛用の武器であるロングソードを横に一振りする。
「魔物は俺たちに任せておけ。だからあんたは薬草を集めるのを最優先に考えるんだ、良いな?」
やけに気合が入ってるなーとガルクレスを見ながら、ルギーレは無言で首を縦に振った。
その洞窟は見るからに薄暗く、入る前から不気味な雰囲気が漂っている。
「こ、ここ……?」
「そう、ここだ」
まるで誰もいなくなってしまったゴーストタウンのような不気味さを感じつつも、ルギーレはそのギルドのメンバーたちとともに洞窟の中に足を踏み入れる。
ジャリジャリと靴底が地面と擦れる音を聞きながらに先に進んで行けば、さっそくその魔物であろう大きなトカゲが姿を現した。
「よっし、お出ましだ。気を引き締めて掛かれ!!」
リーダーのガルクレスの号令で、戦える者たち全員で魔物の駆除をしながら洞窟の先に進んでいく。
洞窟自体はそこまで深いものでもないらしく、道もそんなに分かれていないので自分の道を切り開いてくれるギルドのメンバーに感謝しながら、ルギーレはその目当ての薬草を探すことにした。
だが、そうそううまくはいかないのが現実だった。
なぜなら、その最深部らしき広場までやってきた時にルギーレが思わず絶叫してしまったのだ。
「う……うわあああ!!」
ルギーレが向かったその広場には、なんとガイコツの兵士……いわゆる「スケルトン」の大群が居たのである。
魔術で魂を浄化しないと何度でも生き返ってくるといわれているような、非常に手のかかる魔物なのはルギーレも知っていた。
しかし、そのスケルトンたちの大群よりももっとルギーレを追い込む出来事がこの後に起こるのだった!!




