429.鉱山の町ゴルトベルク
その昼。
ルギーレは帝都メルディアスの北東に位置している鉱山の町、ゴルトベルクへと無事に辿り着いた。
「はー、やっと着いたな!」
思わずそんな言葉が口をつく。
しかし、すぐにまた出て行かなければならないほどに長居はできないだろう。なぜならこの町にもギルドがあるので、先ほどの村での出来事のようにそのカインを慕っている連中が彼の情報を既に回している可能性が高いからだ。
ギルドの情報網というのは意外にスピーディーなのである。
魔術通信などの連絡手段があるのもあって、なかなか身を隠しながらの移動は大変だ。
それでなくても彼はカインに顔を見られている上に、カインとトラブルも起こしているので、緩慢な行動は事態をドンドン悪化させるのは目に見えている。
なかなかそう都合良くはいかないらしいので、ここは素直に馬を使って帝都に向かうしかないのだと判断するルギーレは、鉱山の町ゴルトベルクの入り口に目を向ける。
(ここで何か情報を集めよう。しかし、急がないとあのカインが情報を回して追っ手が帝都に先回りする可能性もあるから長居は出来ないな)
ならば素早くやることをやって出発しよう。
なるべく早く出発出来るのであれば出発したいが、もう昼時で空腹になってきていることもあり腹ごしらえも必要だと考えながら、ルギーレはゴルトベルクの町に入る。
元々ここは小さな辺境の町だったのだが、帝都からそんなに離れていないから結構人の出入りは昔からあった。そして五十年ぐらい前にここで鉱山が見つかってから、その鉱山の仕事と利益で小さな村から町へと規模が大きくなった歴史がある。
例えば今まで何も無かった僻地の町に鉄道の駅ができたりとか、それ以外にも何かしらの経済効果で一気に発展したとかなどのエピソードはこの町に限らず世界中に色々とある。
国が変わっても人間の考えることは変わらないんだな……と感心しながらも、そんな余裕はないと思い直してまずはギルドに向かった。
何かしらの依頼を受けなければ金は稼げないからだ。
帝都メルディアスに近い町であるとはいえ、まだそのメルディアスまでは時間がかかるし、ギルドで集めた情報いわくメルディアスに向かうためには「魔物の出る平原」を抜けなければならないらしい。
これ以上あのギルドの連中とトラブルを起こす前に、さっさとマルニスやセルフォンたちと合流してこの危険な状況からおさらばしたいのだが、そんな彼の元に数人の武装した人間が近づいて来たのはその時だった。
「おい、あんた」
その武装した集団の内、先頭に立っている紫髪の男が話しかけてきた。
「……俺に何か用か?」
いきなり話しかけられたので当然警戒しながら反応するルギーレに対し、その男は予想外のことを言い出した。
「あんた、俺たちが請け負っているギルドの仕事に興味は無いか?」
「別に無いな」
今はもうギルドに対して不信感しか無いルギーレは即答するが、その男は思いがけないことを呟いた。
「そりゃそうだろうな。カイン様に追われてるってなったら興味なんて持てないだろうからな」
「……!!」
その呟きに対し、男に話しかけられた時から警戒心が強い状態だったルギーレから明らかな殺気が放たれる。
「……誰だ、あんたたちは……」
「俺たちもギルドの冒険者だよ。けど、ここであんたをどうしようって訳じゃない。俺たちはあのスカしたカインのヤローが嫌いなんだよ」
「嫌い?」
ルギーレが尋ねれば、男は頷いてから答える。
「ああ。実力は確かにスゲーけど、それを鼻にかけるような所があるから俺たちはあの野郎が嫌いなんだ。そこであんたに俺たちと一緒にギルドの仕事を色々と請け負ってもらって、あいつをトップクラスの座から将来的に引きずり下ろしてやろうって考えだ。どうだい?」
とはいうものの、今のルギーレにとってはギルドの関係者というだけでもかなりの警戒心がある。
それでも相手も引き下がろうとはせず、逆にルギーレの心を揺さぶるセリフをかけてくる。
「あんた、何かしらの事情があるんだろうって俺にはわかる。だが、この先この世界で生きて行くんだったら働き口と金が必要だろうし、男が一人だけで旅っていうのも俺たちから見たらかなり危険だと思うがなあ」
金。
そう、またこの先で自分が一人ぼっちになる時が来たら、その時はどうにかして生き抜いていかなければならない。
とにかく身の回りが安定するまではこんな訳の分からない状況で死ねないので、ルギーレはその提案にしばし頭を悩ませてから答えを出した。
「……分かった。だが……その仕事の内容によって俺がついて行くかどうかを決める」
さっきまで誘いに乗らないスタンスだったルギーレだが、案外この人間たちの言っていることも間違ってはいない。それにまだ彼はついていくと決めたわけでもない。ギルドの仕事とやらの内容を確認してから決めても遅くはないだろう。




