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428.追う者と追われる者

「くっ……見失なってしまったか!」

「何て素早い奴だ……」


 ギルドの連中が動き出していると聞きつけたカイン、そして彼の仲間であり白髪を長く伸ばしている長身のハルバード使いの男であるティレジュのコンビも駆けつけて、ギルドの連中とともにルギーレの追跡をその連中の後ろから続けていた。

 だが、あのルギーレという男は何かしらの大がかりな技を使って追っ手のギルドの連中の対処をしながら、最終的に逃げ切られてしまったようなのだ。

 ティレジュは空中に浮かびながら、血に飢えた肉食猛獣のような鋭い目付きで村の外の周辺を見回して逃げたルギーレの行方を捜してみる……が。


「ダメだ、この周囲には見当たらないな」

「くそ……一旦下に降りようぜ」

「そうだな」


 ティレジュが魔術での浮遊魔法を展開しているのだが、魔力の関係もあってそう長くは持たない。

 それに二人を一気に浮かせている分、一人で飛ぶよりも魔力の消費が多くなってしまうのでカインに言われるがままティレジュは一旦地上へ向かう。

 そして地上に降りてから心底残念そうにかぶりを振って、背中に所持している愛用のハルバードに自分の手を添える。

 皮手袋越しに伝わる柄の冷たさが、カインがどうしても捕まえたがっていたあの人間を逃がしてしまった悔しさと虚しさを、無言で伝えてきている気がした。


「手分けしてあの男の行方を追うか?」


 そう提案するティレジュに、カインも皮の手袋に包まれた細長い指を顎に当てて唸る。


「んー……闇雲に歩いて探しても時間ばっかり食うだろうし、手分けして探しても一人ならまた撒かれちまう可能性もあるだろうし……それは得策じゃねえと思う。これじゃどーしようもねえな……」


 またしてもあの手柄を横取りした謎の人間に逃げられてしまったカインは、朝日に照り付けられて輝く自分の青髪をガーッと手袋越しに掻きむしった。


「とにかく時間の無駄にならないように、少しずつ探してみるしか無さそうだ」

「ったく……あの野郎、捕まえたら骨の一本や二本はへし折ってやらねえと気が済まねえぜ」


 その瞳にゴウゴウと怒りの色を滲ませるカインと、相変わらずの厳しい目つきで辺りを窺うティレジュ。

 そんな二人の男たちが探している人物はというと、すでに街道へと出てとっくに距離を大きく離しているのだった。


(……空を見ても……誰もいねえな)


 灰色のドラゴンの姿はどこにも見当たらない。

 とっくに魔力を消す薬の効果は切れてしまっているので、自分の存在を魔力で感じ取ることができるようになっているのであれば、マルニスとセルフォンが自分のもとにやってきてくれるはずだろうと考えているルギーレ。

 しかし、そんな彼の考えは全然裏切られている状態であった。

 あの大きな衝撃の正体が一体何だったのかは結局ルギーレにはわからずじまいだったのだが、今の彼がそこから考えられるのは、あの衝撃の正体によって自分たちがバラバラになってしまい連絡が取れない状況に陥っていることであった。


(俺だけじゃなくて、マルニスとセルフォンも連絡が取れない状況になっているんだったら、そりゃあ連絡は来ねえだろうけどよ……)


 とりあえず先ほどの村に戻ることはできないので、自分はどこかの町か村を探して進んでいくしかないのである。

 せめて魔晶石があれば再度連絡を取ることができるかもしれないが、ルディアたちと連絡を取ったあの魔晶石は借り物だったので、今は手元に魔晶石がない状態だ。

 連絡手段もない、金もない、あるのはレイグラードだけ……。

 今の自分がとても危機的状況に陥っているのを改めて実感するルギーレだったが、だからといってそんな都合のいい展開がやってくるはずもない。


(そもそも俺、アーエリヴァの()()()()って勇者パーティーにいた時だって余り来たことなかったんだよな)


 勇者パーティーは世界中を冒険して様々な敵を倒し、人助けをして地位と名誉を築き上げてきたパーティーだった。

 しかし今ではそのパーティーも徐々に崩れ去ろうとしている。

 彼がいた勇者パーティーも、アーエリヴァに来たことは何度もあるもののメインの依頼は西側の砂漠方面が大半であったため、今のルギーレがいる東側にはそれこそ帝都メルディアスに立ち寄るのが来る理由だった。

 そんな東側に放り出されてしまったルギーレだが、考えても仕方ないので街道を歩き続けるしかなかった。


(落ちちまった場所からはそんなに離れていねえはずだし、もうちょっとで帝都だったはずだから、えーと……向こう側を目指して歩いていけば何とかなるかな?)


 地図も何も持っていない今の状況では、自分の方向感覚だけが頼りになる。

 とにかく今の自分はまたどこかの人里を探すのみだと、腹がまた減ってこない内に見つかってほしいという期待を胸に抱き、ルギーレは足を進めていった。

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