426.村の夜明け
「……あれ、連絡がつかねえな」
借りた魔晶石でマルニスとセルフォンに連絡を取ってみるルギーレだが、何と魔晶石に反応がなくて連絡が取れなくなってしまっている。
あの大きな衝撃を受けた時に離れ離れになってしまったこともあって、向こうの二名も連絡手段がなくなってしまったのだろうか?
とにかく繋がらないことには仕方がないので、マルニスとセルフォンに連絡はあきらめてこちらのメンバーに連絡を入れてみると、今度はきちんとつながってくれた。
『……はい?』
「俺だ、ルギーレだ」
『え……あっ、ルギーレ!?』
知らない魔晶石からの連絡が入ってきたことで、驚きを隠せない通話の相手はどうやらルディアのようだ。
そんな彼女に対して、ルギーレは自分たちが帝都メルディアスに向かっている間に起きたことを説明する。
『……わかったわ。それじゃ今は離れ離れで連絡がつかなくなっちゃったと?』
「そうなんだ。すまねえけどこの魔晶石も借りもんだから、どっかで買ったらまた連絡する」
『わかった』
通信を終えてそれで一安心のルギーレだが、財布も何もない状況では困ってしまって仕方がない。
ひとまず畑作業の手伝いをすることを条件に身体を洗わせてもらい、食事ももらえることになった。
そしてそのまま村長の家の客間を借りて寝に入ったルギーレだったが、まだまだ不安要素は尽きないままである……。
◇
朝。
(ん……疲れは余り取れてないかな……)
自分でもぐっすりと眠っていたのは確かに理解出来るが、それでも身体はまだその疲れを取れ切れていないようだった。
やはり「連絡の取りようがなくて独りぼっち」というかなりショッキングな体験をした身からすれば、脳の処理が未だに追い付いていないので、それが疲労回復にも影響を及ぼしているのかも知れない。
それでも、面倒くさそうな相手とエンカウントしてしまったのであればさっさとこの村を出なければならない。
まずは村長の家で朝食を摂る。動き回るのもエネルギーが必要だ。
(飯を食ったらさっさとどこか別の町とかギルドに向かおう)
とにかくギルドに寄って何か依頼を受けて、金を稼ぎながら進まないといけないと考えながらルギーレが食事の最後の一口を飲み込む。
その決意を新たに村長に礼を言い、村を出ようと出入り口の近くまで来た時だった。
「ここに居る筈だ、探せ!!」
突然、村の入り口からドカドカと大勢の武装した男女が踏み込んでくるのがルギーレの目にも見えた。
一体何事かとルギーレがその集団を横目で気付かれないように見ていたのだが、その集団の方がルギーレに用事があるらしく彼を見つけて一気に詰め寄って来た。
「あっ、あいつだ!!」
「え……?」
リーダー格らしき痩せ身の男が、その手に持っているシャムシールをチラつかせながら一気にルギーレに詰め寄って来る。
「な、何か俺に用か……?」
推定十五人の集団に詰め寄られて、身体が無意識に震えてしまうルギーレ。
いくらレイグラードを持っていても、さすがにこの人数を相手に村の中で騒ぎを起こすわけにはいかないと考えるルギーレだが、そんなの関係ないとばかりに更に詰め寄ってくる謎の武装集団。
そしてそのリーダー格らしき男は、ルギーレに向かってとんでもないことを言い出した。
「カイン様の依頼……潰してくれたらしいな」
「依頼……?」
「とぼけんじゃねえ!! お前が山で潰した魔物連中の話だよ。あれが原因でカイン様はせっかくのチャンスを逃しちまったんだ。だから責任取ってもらわなきゃなあ?」
「はぁ……?」
あの魔物集団のエンカウントの話をしているのは理解出来たが、エジットとやらも無茶苦茶なことをいっていたので、この連中は無茶苦茶ないいがかりをつけて来るとんでもない集団だという結論に達したルギーレ。
「責任って何だよ……俺にどうしろっていうんだ?」
「とにかく俺達と一緒に来てもらうぜ。カイン様の元に連れて行ってやる」
しかし、そんな事になってしまうのはもちろん避けたいルギーレは何としても脱出を図る。
「嫌だね」
「何だと?」
ルギーレの返答に殺気立つ痩せ身の男だが、そんな彼が次のセリフを口に出そうとした瞬間、ルギーレは逃げ出すこのチャンスをものにするべくまずは力任せに痩せ身の男を両手で突き飛ばす。
「ぐおっ!!」
突き飛ばされた男が他の人間を巻き込んで後ろによろけ、そこに道が出来たのでルギーレはその道を通って駆け出した。
といっても出入り口側はその集団によって塞がれてしまっているので、自分が朝目覚めた村長の家がある方向へと向かう。
「おい、絶対逃がすな!!」
その痩せ身の男の声が後ろから聞こえて来るものの、それに構わずルギーレは逃げ出す算段を頭の中で組み立てていた。
(こんな場所で死んでたまるか!!)
意を決して、ルギーレはレイグラードを使うこともためらわないしようと考えつつ、他の場所から逃げるべく出入り口になりそうな場所を探し始めた。




