421.バラバラ
「は、はあっ……はあ……」
『な……何とかやったな……』
マルニスとセルフォンは、今しがた自分たちが倒したジルトバートが崖の下にずり落ちながら燃え盛っているのを、崖の上から見下ろして一息ついていた。
どうにかこうにか強敵を倒すことに成功した二名だったが、作戦としては急ごしらえだったためにほぼ失敗といえるだろう。
「でも……誰が操縦していたかとか結局あれは本当にジルトバートだったのかって検証できなくなってしまいましたね……」
『そうだな。少なくとも某たちはあの火が消えるまでは近づけん』
水属性の魔術を使えるシュヴィリスがいればまた話は変わってくるのだが、セルフォンでは風属性のため風の魔術で消そうとしても、火を撒き散らして二次災害を引き起こすのがオチだった。
なので今回はあのジルトバートが燃え尽きるまで待たなければならず、それをただ悔しそうに歯ぎしりして見つめるしかない二名。
「あーあ……あんなにバラバラな部品も少しは集められれば何か手がかりになることがあるかもしれないのに……」
『全くだな。あそこまでバラバラになってしまったら……ん?』
バラバラ?
二名がそれぞれそのフレーズを口に出して、何かとんでもないことを忘れている気がしてたまらなくなってくる。
バラバラ……バラバラに?
「……あっ!?」
『そ……そういえばルギーレは!?』
今ここで思い出した、ジルトバートの回収よりも大事だと思われる話。
それはマルニスと一緒にセルフォンの背中に乗っていたはずの、ルギーレの行方が全くわからなくなっていることだった。
どこでいなくなったのかを考えると、最初にジルトバートの攻撃を受けた時に吹っ飛ばされてしまったとしか思えなかった。
それに気がついた二名は、すぐさまルギーレがどこに落ちていってしまったのかを探すことにしたのだが、いかんせんまだ夜が明けていないこの状況である。
「下は森や平原が広がっていて明かりもないですし、僕たちがジルトバートと戦っていてどこに吹っ飛んでいったのかもわからないままじゃあ、とても……」
『最初から諦めてはいけない。とにかく捜せるだけ捜してみなければわからないだろう!!』
ルギーレは一体どこへいってしまったのか?
そもそも今まで戦っていた高度から落ちていってしまったら、それだけで助かる見込みはほぼないに等しいとみていいが、それでも諦めきれないのはやはりどこかで何かに期待しているからなのだろうか?
とにかく、この周辺一帯を捜してみようと二名は決意して歩き出した。
◇
「手、足、ともに異常なし……すげえなレイグラード」
その頃、遠く離れている場所で立ち上がったルギーレは自分の身体の状態をチェックして驚きを隠せなかった。
何かに吹っ飛ばされて宙に浮いた自分の身体をコントロールしきれないまま、暗闇の海の中へと投げ出されてしまったルギーレ。
何が起こったのかを頭で理解していくと同時に、自分がどうにもこうにもできない状況に置かれているのは理解できた。
だからといってどうしようもできない状態で、ルギーレはただ真っ逆さまに空中を暴れ回ることしかできなかった。
「う……おあああああああああっ!?」
レイグラードだけは離すまいとしっかり腰のベルトを両手で掴んでいた彼だったが、その瞬間不思議な感覚が彼の身体を包み込んでいく。
何か、クッションのようにぷよぷよと柔らかいものが身体全体を包み込み始めたのだ。
(なっ、何だこりゃあ!?)
まるで虫の繭のようなそれはルギーレを完全に包み込み、そのまま真っ逆さまにどこかの森の中へと落ちていった彼の身体に一切のダメージを与えることを許さず、守り切ってくれたのであった。
そしてその落下した衝撃の中で、ルギーレはレイグラードからその繭のようなものが出ていることに気がついたのであったが、衝撃がなかなか大きすぎたために意識を失なってしまった。
そして目が覚めてみれば、自分がどこかの森の中へ墜落していたことに気がついた。
(ここはいってえどこなんだ? マリユスたちと活動していた時もアーエリヴァには何回も来たことがあるが、こう暗くちゃどこがどーなってんのかさっぱりだぜ)
繭もいつのまにかなくなっており、自分がノーダメージでここに落ちてきたのを確認した彼は、とにかくこのアーエリヴァに一緒にやってきたマルニスとセルフォンと合流するべく歩き始めた。
(ここからじゃ木に遮られて空が見えねえな。少なくとも翼の音が聞こえて来ねえから近くにあいつらはいねえだろう。とにかく歩いて捜すしかねえか……)




