419.突進攻撃
「……あっ?」
「えっ……」
『ぐふっ……!?』
横っ腹に何かの衝撃を受けたセルフォンの身体は思いっきり空中で吹っ飛び、きりもみ回転しながらグルグルと空中を暴れ回る。
何が起こったのか三名とも全く理解できなかったが、ただ一つわかったのはこの空中で三名がバラバラに投げ出されてしまったことだ。
「う……おあああああああっ!?」
「わああああっ!?」
『うお……くっ!?』
人間二人が背中から投げ出されてしまったのを肌で感じ取ったセルフォンは、すぐに魔力を感じた方向に旋回して助けに行こうと考える。
しかし、今の自分たちはセバクターから貰った例の薬によって魔力が体内から失くなっている状態のため、その救出方法が取れないと気がついた。
『くっ……!!』
しかも明け方でまだ陽も出ていない時間帯に潜入しようとしたことが仇となってしまい、人間二人がどこに飛んでいってしまったのかを確認することができないセルフォン。
とにかく必死に体勢を立て直して、自分がしっかりしなければならないと考えつつ何とか持ち直した……はずが!?
『ぐおっ!?』
再び身体に襲いかかる、何かの強い衝撃。
これは一体何なのか?
少なくとも突風に煽られたようなものではない。何かがぶつかってきたとしか思えないこの衝撃の強さに、今度は後ろに向かってぐるぐると回転しながら吹っ飛ぶセルフォン。
何かがこの夜の闇の薄暗さを利用して、突進攻撃を仕掛けてきているとしか考えられない。
『ぐぅぅ……っ!!』
翼を激しく動かして再び体勢を立て直したセルフォンだったが、ふと左の翼の先端に違和感を覚える。
何か重量バランスが右と比べておかしいので振り向いて確認してみれば、そこには何としがみついているマルニスの姿があったのだ!!
「くっ……くっ!?」
『ま……マルニス!?』
ひとまず彼だけでも何とか助けるべく、また謎の衝撃に襲われないうちにまずは身体を右側に傾けるセルフォン。
そして左の翼を一度下げて、そこからグイッと持ち上げてその勢いでマルニスを翼の上へと引っ張り上げる。
「はあっ、はあっ……ああ……死ぬかと思いました……!!」
『確かにそうだな。だがまだ、どこかから何かがやってくるぞ!!』
マルニスが背中に戻ってきたことでひとまず一安心の一匹と一人の合計二名だが、一匹の方が言っている通りまだこの謎の衝撃は続く可能性が高いのだ。
魔力が戻ってくれば敵が何なのか、それからその敵がどこにいるのかを特定するのは簡単なのだが、あいにくまだ薬の効果が切れてくれる時間ではなさそうだった。
帝都メルディアスの近くまでやってきてから薬を使って魔術防壁を突破したことが、ここにきて完全に裏目に出ているこの状況をひっくり返すためには、自分が何とかするしかないとマルニスが意気込む。
(謎の敵の突進攻撃は恐ろしく強い。だが僕は知っている。その何かが突進してきた時に、恐ろしいほどの風切り音が聞こえてきたのを!!)
セルフォンの羽ばたく音とはまた別に、何かが風を切って接近してきたのをマルニスはこの暗闇の中で聴き取ることに成功していたのである。
たてがみの部分にしがみつきながら、マルニスは大空の闇の中に意識を集中すると……。
「……来たっ!! 右です!!」
『くっ!!』
マルニスの声を聞いたセルフォンは、身体全体の力を抜いて一気に高度を下げる。するとそれにワンテンポ遅れる形で、マルニスのすぐ頭上を恐ろしく大きな物体が通り過ぎていった。
もし一瞬でもセルフォンの移動が遅れていたら、自分に直撃して吹っ飛ばされていただろうと思うと身震いを隠せないマルニス。
その彼に対して、セルフォンが今しがた自分とすれ違った謎の物体について見当をつける。
『ワイバーンやドラゴンの類ではないな。さっき言っていたこの国の騎士団のワイバーン部隊ではなさそうだ!!』
「でしょうね。ワイバーンたちだったらもっと翼の音がするはずですからね!!」
しかし、いまだにその謎の飛行物体の正体がわからないのも不気味である。
そう思っていた次の瞬間、曇り空だったその闇の中に月明かりが差し込んだことによって、謎の飛行物体の正体が明らかになった。
「……あ、あれは!?」
『知っているのか?』
「もちろんです!! 僕の記憶に間違いがなければ、あれはアーエリヴァで勇者の仲間のベティーナが、僕の仲間であるヘルツに操縦させていた……赤い大型人型金属兵器のジルトバートです!!」
マルニスの指差す先には、まるで絵画の一部のように美しく煌めいている赤い大型兵器の姿があった……。




