412.まさかの再会
まだガサガサ、ガサガサとその音は鳴り止まない。
確かに茂みの中に向かって岩を複数、鋭い針や槍のようにして飛び出させたはずなのに、手応えがないということになってしまう。
『……ま、まさか避けたのか!?』
『おいおい、そうだったらとんでもない奴じゃねえのか?』
だったら自分の火属性の魔術で……と考えるエルヴェダーだが、それをやってしまうと木々が燃えてしまう可能性があるのでできなかった。
なのでここはグラルバルトの武器になっているナイフを一本借りて、茂みの中に向かって投げつけてみる。
ヒュッと音を立てて風を切って進むそのナイフは、迷いなくしっかりと茂みに向かって吸い込まれていくのだが、それは途中でカキーンと甲高い音を立てて弾き飛ばされてしまった。
『……おい、誰かいんのかよ!?』
魔術の効果が見られない上に、武器も吹っ飛ばされてしまうような相手が正体不明のままでは気持ち悪いので、苛立ちを隠せない声色でエルヴェダーが茂みの中に声をかける。
するとようやく、そのガサガサという音を立てていた相手の正体が明らかになったのだが、それはメンバーの内の一人にとって驚きの存在だったのだ。
「……これ、返すぞ」
「え……ど、どちら様?」
「あ……あああああっ、貴様は……!?」
困惑するルディアの横で、大きな声をあげて驚きを隠せないでいるのはマルニスだった。
それもそのはずで、彼の視界に入っているその音の正体である人間の男はまさしく……。
『何だ、知り合いか?』
「知り合い……ではありませんが、この男ですよ!! あなたの地下通路で僕を倒して去っていったのは!」
『何だと!?』
一気に殺気立つグラルバルトたちだが、それを見ても茂みの中から現れた人間……マルニスを砂漠の地下通路で倒して行方をくらましていたあのピンク色の髪の毛を持っている、若い傭兵風の長身の男は動じた様子を全く見せない
赤い上着に水色の胸当て、肩当てに腕当てに胴当て、それに白いズボンを履き紫のロングブーツの上に水色の膝当てというやけにカラフルな格好をしているのが印象的だ。
しかしルディアたちにとっては敵となるので、構えた武器は下ろさないまま男を見据えて尋ねる。
「なぜ僕をあの地下通路で襲った!? 貴様は何者だ!?」
「俺は流れの傭兵でセバクターという。あの時お前を襲ったのは単純に依頼主の命令だ」
特に悪びれる様子もなく、任務の一環さということでやったんだと主張するこのセバクターという傭兵。
しかし、そんな彼を見てグラルバルトとエルヴェダーは違和感を覚える。
『……おい、君……何かおかしくないか?』
『俺様もそう思うぜ。なーんかこう……なんつーのかうまく説明できねーんだけど違和感を覚えるっつーかさー……』
ルディアを含めた人間たちにはわからない違和感があるらしいのだが、それはセバクターにとっても同じような気持ちになっているのだという。
「まあ、それはよく言われる。それよりも今の俺は雇い主からもう用済みだと言われてこうしていろいろと旅をしているんだが、よかったら協力しようか?」
「協力ですって?」
「ああ。以前の雇い主からお前たちの話は聞いていたし、どうやらこの国の中から脱出できないで困っている様子だしな」
マルニスにとっては二度目、ルディアたちにとっては初対面のセバクターというこの男は、何やら色々と知っているようだ。
しかしマルニスは一度この男に襲われて大怪我をしているだけあって、絶対にその誘いには乗らないぞという意思表示を見せる。
「ふざけるな!! 僕は貴様に襲われているんだぞ!!」
「それはわかっている。だからこそその罪滅ぼしも兼ねて、この国から脱出するために使える薬を持ってきたんだ」
『薬だって?』
グラルバルトの訝しげな視線に対しても、その冷静な表情を崩さずにセバクターは頷いて続ける。
「ああ。これは俺がこの国から脱出するためにその依頼主から貰ったんだ。予備として多めに貰っているから、それを分けてやる」
「何の薬なんですか? 毒じゃないんだったら自分で飲めますよね?」
騙し討ちということも多分に考えられるので、まずはお前が飲んでみろとセバクターにいうルディア。
しかし、セバクターはここで奇妙なことを言い出したのである。
「今ここでこれを飲んでもいいが、そうすると効果が持たない」
「効果?」
「ああ。これは体内の魔力を一時的に失くす薬だからな。これがあれば魔術防壁をそのまま突破できるものだ」




