411.打開策
まさかそんな話が皇帝や宰相の耳に入っているとは知るよしもなく、ルディアやマルニスたちは何とか隠れ場所を見つけて身を隠していた。
「これからどうすんだよ!? 俺たちお尋ねモンだぜ!?」
「僕だってわかってる!!」
しかし、わかっていてもその絶望的な状況をどうやって打破するかが問題なのだ。
エルヴェダーとグラルバルトという伝説のドラゴンが二匹もこうしてそばにいるのにも関わらず、この魔術防壁で覆われてしまった国からどうやって脱出するかが思いつかない。
ならばとこうして身を隠しながら、いっそのこと帝都に乗り込んで自分たちの無実を証明するべく行動していたのだが、予想以上に騎士団の動きが速いのだ。
『指揮をとっているのは誰なんだ? 君の友人で副騎士団長でもあるといっていた、ブラインという男がそうか?』
「多分そうだとは思うんですけど、あいつは戦略はそこまで得意ではないので……もしかしたら別の誰かがブラインに代わって指揮をとっているかも知れないです」
しかしこの際、誰が指揮をとっているかなどは関係なしにその騎士団が自分たちを追いかけてきていることに、焦りと苛立ちを隠せないマルニスたち。
最初はドラゴン二匹で帝都メルディアスへと乗り込む予定だったのだが、また先ほどのように魔力エネルギー砲を何発も乱射されでもしたらたまったものではない。
しかし自分たちの力だけでは、このままメルディアスへと乗り込んだところですぐに捕まってしまうのがオチだともわかっている。
どうにかして自分たちの無実を証明しない限り、ずっとこの国の中で追いかけ続けられてしまうので、それだけは何とかしたいと考えているマルニスたち。
そしてルディアの方も、ここまで運んできたヘルツに定期的に回復魔術をかけているのだが、果たして魔術が効いているのかどうかが怪しい状況だった。
「あ、あの……このヘルツさん……でしたっけ? この人って魔術が余り効きにくい体質とかだったりしますか?」
「いーや別に。俺たちもそいつと付き合いは長いけど、全然そんな話を聞いたことはないぞ?」
「そうですか……いやあの、普通ここまで魔術をかければ意識が戻ってピンピンしているはずなんですけど、全然意識が戻らないんですよね……」
脈はあるので生きてはいるのだが、こうして意識が戻らないとなれば何かしらの状態異常が起きているといっていいだろう。
しかし、その状態異常が何なのかわからないままここまできてしまったので、ヘルツをどうにかして目覚めさせるのもやらないといけないことの一つだった。
『うーん、アサドールかセルフォンがいりゃあ何かわかるかも知れねえけど……俺様もおっさんもあいにく魔術にはそこまで強くねえんだよな』
『ああ、ヘルツをこうしてしまった元凶が逃げてしまったみたいで今どこにいるのかもわからないままだから、私たちにはどうしようもない話だ……』
伝説のドラゴンたちでも得意分野はそれぞれ違う。
医療や回復に強いのは風属性で医者をしている灰色のセルフォンで、魔術の研究をしている緑のアサドールもそうした方面にはかなり明るい。
しかしここにいるのはあいにくそうした分野からは対極にいる二匹なのだ。
だからせめて、この状況を打破できるような人間でもドラゴンでも現れないだろうかと考え始めた矢先、現在身を隠しているこの洞窟の近くの茂みからガサガサと音が聞こえたのを、出入り口に一番近い場所にいたカリスドが聞き取った。
「……おい、何かがいるぞ?」
「え?」
「何かって……この気配からするとどうやら人間みたいですけど……」
探査魔術で近くの魔力を探ってみたルディアが、確かにそのカリスドが指差した茂みの方に一つの魔力があるのを探知する。
魔物か、それとも騎士団の追っ手かはたまた盗賊の類か。
いずれにしてもこんな場所にたった一つの魔力というのは良からぬ予感しかしないので、カリスドにヘルツを任せて残りのメンバーはそれぞれ武器を構えて身構えつつ、未だにガサガサと音を立てている茂みの方へと近づいていく。
「向こうも近づいてきますね……」
「そうですね。……おい、誰かいるのか!?」
マルニスが茂みの中にうごめいている影に向かって、大声で問いかけてみる。
人間であればこの時点で返答があるはずなのだが、そんなものはなくガサガサと音をさせながら影が近づいてくる。
となればやはり魔物の類だろう。
そう確信した一行は、先手必勝とばかりにまずはグラルバルトが地中から岩の針を何本も突き出して串刺しにする「ストーンアロー」の魔術を繰り出した……のだが!?




