407.ヘルツ救出のために
『なぁ、一体何がどーなってんだよ!?』
『私に聞かれても知らん!! だが、私からいえるのは恐らくあのベティーナとかいう女が何かをしたとしか考えられん!!』
エルヴェダーとグラルバルトの二匹のドラゴンを含め、ルディアたちは予想だにしていなかった展開の連続に何をどうすればいいのか判断がつかず、あたふたしながらこれからどうするかを考えていた。
なぜなら、ルディアたちを襲った「予想だにしない展開」というのは二つあったのだが、まずそのうちの一つが自分たちが倒したジルトバートの操縦席から、マルニスとカリスドの見知った男が姿を見せたからである。
「お、おいやっぱり!!」
「ヘルツ!! しっかりしろヘルツ!!」
操縦席から力なく救出されたのは、カリスドが度々その口に出していたヘルツという騎士団員だったのだ。
銀色のやや長めの髪の毛に痩せ型の体躯を持ち、弓使いとして騎士団の中では有名な彼は、かつてマルニスやカリスドと一緒に冒険をしていた仲間の一人だというのだ。
旅を終えて現在は騎士団員となっているので当然マルニスの部下となるのだが、どうして彼がこのジルトバートの操縦席に座っているのだろうか?
とにかくこのまま意識を失なったままではまずいので、応急処置でルディアが回復魔術をかけた後に、近くの町か村まで運んで治療を受けてもらうことにする。
そしてドラゴンたちの背中に乗った人間たちの中で、ヘルツがジルトバートの操縦席から出てきたことについて考えが始まる。
「まさか……反乱を企てていたとか!?」
「おいちょっと待てよ、ヘルツに限ってそんなこたぁ……!!」
ルディアの予想にくってかかって、そんなことはないと反論するカリスド。
だが、その横でグラルバルトの揺れに耐えながらヘルツの様子を見ているマルニスは、静かな口調でルディアの予想に同調したのだ。
「その可能性は……僕もないとも言い切れない」
「おいおい、マルニスまで一体何言い出すんだよ!? 俺たちの仲間が信用できねえのかよ!?」
カリスドが自分にもくってかかってきたのを、マルニスは冷静な口調でどこか冷ややかに返答する。
「仲間だからこそ、だろう?」
「え?」
「僕たちが出会った理由は何だった? 僕たちはそれぞれ経緯は違えど、全員が当時のアーエリヴァ騎士団に不遇な扱いを受けていて、それで当時の騎士団長を倒すために動いていたんだろう」
「そりゃまあそうだが、じゃあどうしてヘルツが反乱を起こすんだよ!? そんなのおかしいじゃねえかよ!!」
「僕にだってそれはわからない。だからヘルツを助けるために今こうしてドラゴンたちに運んでもらっているんだろう!!」
とにかくこのままヘルツが目覚めないようなことがあれば、彼がジルトバートを動かしていた理由もわからないままなのだ。
だからこそ、あの魔物に襲われるかもしれない屋外を避けてどこかゆっくり横になることができる場所まで運ぼうと思ったのだが、この先でその場所すらなかなか見つからなくなってしまうなど、今のルディアたちには予想できるはずもなかった。
『よし、あそこに町が見えるからそこに運ぼう』
グラルバルトの視線の先には、小さいながらも町が見えてきている。
そこでヘルツをゆっくりさせようと考えてこうして東に向かって飛んできたのだが、もちろんこのドラゴンの姿のままで街に入れるはずもないので、町の手前で降りて人間の姿に戻ったグラルバルトの背中にヘルツを背負わせて中に入ろうとした……が!?
「うっ、うわああああああっ!?」
『えっ?』
町の中に入ったグラルバルトたちの姿を見た住人たちが、明らかに恐れをなして逃げていってしまった。
ドラゴンの姿にはもちろんなっていないし、ただ治療が必要な男を背負って町の中に入っただけなのだ。
それなのにどうしてあんなに怯えて逃げていく必要があるのだろうか……と首を傾げるグラルバルトの耳に、今度は危機を町中に告げるべく設置されている鐘の音がけたたましく鳴り響き始めた。
「ちょっ、ちょっと何がどうなっているのよ!?」
『わかんねえよそんなの!!』
自分たちが町に入ってきた途端、明らかに異常事態が起こってしまったらしいのだが、もちろんルディアたちはまるで心当たりがない。
そんな彼女たちの元に、どどど……とけたたましく重厚な足音を立てながら完全武装した町の警備兵たちが駆けつけてきた。
そしてその中の隊長と思われる兵士が、意味のわからないことを言い始めたのはその瞬間だった。
「お前たちだな、勇者様に濡れ衣を着せた人間たちってのは!?」




