404.まさかの敵(その3)
「……ん?」
それに最初に気が付いたのは、グラルバルトの背中に乗っているマルニスだった。
『どうした?』
「いや、今一瞬あの顔の部分に人影が見えたような……」
『人?』
いきなり何を言い出すのかと疑問に思いつつも、空中に向かって振るわれるロングソードを回避しながら、そのマルニスの言っていることを確かめるべく果敢に接近を試みるグラルバルト。
ジルトバートの顔の部分は見えないようになっている素材を使っているらしいのだが、どうやらそうではなく光の反射の関係でなかなか見えなくなっていただけらしい。
そしてその見えなくなっていた部分が見えたことによって、マルニスとカリスドにとっては最悪の事態が見て取れるようになった。
「……!!」
思わず息をのむマルニス。
ジルトバートの顔の部分にはやはり、誰か一人の人間が乗り込んでいる。だとしたらこのジルトバートは人間の手によって動かされているので、それはもう間違いないだろう。
しかし、その人間の正体がもし自分の予想している人間だったとしたら、この予想だけは心の底から外れてほしいと思ってしまうのもまた事実だった。
なぜなら、その乗り込んで操縦している人間は自分とカリスドがどうも見覚えのある人間のような気がしてならなかったのだ。
「くっ……もう少し接近できないか!?」
『すまん、これ以上接近するとこいつの射程圏内にもっと近づいてしまう!!』
「もう……!!」
見えそうで見えないというのが一番モヤモヤするのだが、それよりも先にその人物の正体に気が付いたのはエルヴェダーの背中に乗り込んでいたカリスドだったのだ。
「お、おいあれって!?」
『あれ?』
「あの頭んとこに乗り込んでる奴、あれってヘルツじゃねえの!?」
『えっ、ヘルツってまさか!?』
その名前と顔が一致するのであれば、もう間違いない。
このジルトバートを現在こうして操縦して、自分たちに向かって巨大な凶刃を振り回してきているのは、自分たちの仲間であり同じ騎士団員であるはずのヘルツという男だ。
その事実を認めたくないのはカリスドもそうなのだが、かといってここでこんなデカブツを放置していたら、最悪の場合は近くの町を始めアーエリヴァ中が蹂躙されてしまう結果になってしまうのは目に見えている。
「くそ……あいつが乗ってんだったらうかつに手出しできねえぞ!!」
『んなこと言ってる場合か!! こいつぶっ潰さねえともっとやべえことになんだろーが!!』
攻撃することを躊躇し始める姿勢のカリスドを一喝したエルヴェダーは、グラルバルトよりも果敢にジルトバートの近くに向かっていく。
『さっきから俺様やグラルバルトのおっさんが魔術で攻撃してっけど、全然効く気配がねえ!! こーなったら俺様が接近すっから、お前のその長い斧であいつを斬りつけてくれ!!』
「わ……わかった!!」
どうやら魔術に対して耐性があるらしいこのジルトバートという巨大兵器を相手にして、どうにかしてダメージを少しでも与えられれば勝機はあるだろう。
一番いいのは脚を潰すことだろうが、せわしなく動き回っているそこを潰すとなるとなかなか危険だし、ドラゴンたちも空中ほど身動きをとれるわけでもないので厳しい。
なのでエルヴェダーが円を描く軌道で接近し、その背中で自分のロングバトルアックスを握りしめるカリスドが、ドラゴンの横からそれを突き出す格好になって一気に仕掛けていく。
「うおおおおおおおおっ!!」
『おらああああああああっ!!』
全身全霊でジルトバートに接近するエルヴェダーの行動を無駄にしないためにも、とりあえず腰の部分を狙ってみる。
どこをどう攻撃すれば最も効果があるかわからないため、とにかく今はやるだけやってみるのが一番だと考えたカリスドのロングバトルアックスが、ジルトバートの胸めがけて突き進む!!
もちろんジルトバートもロングソードを振り回して防御しようとするが、すでに懐に入り込んでいたエルヴェダーの動きを封じる手段はなかった。
「うらぁっ!!」
『よし、どうだ!?』
ガキンと金属らしい音を立てて、うまくジルトバートの胸にロングバトルアックスの刃が滑っていく。
しかしダメージを受けたのはジルトバートの方ではなく……。
「ぐっ……あっ!?」
『なっ!?』
ジィンと腕全体にしびれが来るカリスド。
そしてよく見てみれば、今しがたジルトバートの胸の上を滑って行ったはずのロングバトルアックスの刃が、少しだけではあるが確実に欠けてしまっていた。
ここまで幾多もの潜伏部隊を倒してきて劣化してきていたとはいえ、並の攻撃ではこんな欠けるはずがない刃が欠けてしまうなんて、このジルトバートに使用されている材質はどれだけ頑丈なものなのだろうか。
「く、くそーっ!!」
『これじゃお手上げじゃねえか!!』
絶望するエルヴェダーとカリスドだが、そこにさらにこの二名を含めたルディアたち一行を絶望させるには十分の攻撃が待っていたのである。
それは、両肩の上の部分に取り付けられている四角い部分がパカッと開いたことから始まった。




