403.まさかの敵(その2)
そのまま地下水脈を抜けようとしたところで、外の景色が見える出入り口まで来たルディアたちの耳に大きな音が聞こえてくる。
「……この音は!?」
『どうやらこの先に先ほどの民間人たちを洗脳して、私たちにけしかけてきた連中がいるみたいだな』
『いわゆる本隊の連中って奴らだな。でも、これから先に待ち受けている奴らがどんなのかわからねえから用心して進もうじゃねえの』
やはり気になるのは、ここまでにもたらされたカリスドの情報にあった「赤くて大きな金属製の人型兵器」の存在である。
十中八九、自分たちが以前遭遇したあれに間違いはないのだろうが、どうしてもそれを目の前にして勝てるような気はしないのがルディアであった。
「ここまで来たらやるっきゃねえだろ。俺たちだってまだヘルツを見つけてねえんだからよ」
「そうだな。きっと本隊に捕らわれているはずだ」
そうでなければ、ここまで来ているのにまだヘルツが見つかっていないということに違和感を覚えても仕方がない。
なのでとにかく先に進むしかないと決意した一行の目の前に現れたのは、見覚えのあるロングヘアーの武装した女戦士と、その斜め後ろにひざまずいている赤くて大きな巨大兵器の姿であった。
「ふふふ、よくここまで来られたわねえ。でもあの役立たずのルギーレはどうやら一緒じゃないみたいね?」
「そんなことは関係ないわよ。あなたたち、一体何を企んでいるの!?」
いやらしい笑みを浮かべるベティーナに対して、ルギーレを助けに来たはずのルディアたちの目的はいつの間にかこのベティーナたちの目的を暴くというものに変わっている。
しかしそうせざるを得ないだけの情報が目の前に広がっているので、その企みを知っている本人に強い口調で問いかけるルディア。
だが、ベティーナがそれを素直に答えるはずはなかった。
「ふふふ……そうねえ、私たちがそれをあなたたちに教える理由がないわ。私たちのことをもっと知りたいのはわかるけど、だったらまずはこの後ろの赤いのに勝ってみるのね」
「やっぱりそうなるんだな。よーし上等だよ。やってやろうじゃねーの!!」
頭に血の上りやすい性格のカリスドがそういえば、ベティーナは後ろに跪いている赤くて大きな人型兵器に向かって顎をしゃくる。
まるで女王と従者のような存在だなあとグラルバルトが思いつつも、こうなってしまった以上は戦うしかないのが現状であるのだが、この後に待ち構えている衝撃の事実が判明することになろうとは思いもしていなかった。
「さぁ、それじゃああなたの実力を存分に見せてあげなさい。ジルトバート!!」
ジルトバートと呼ばれた赤い巨大人型兵器は、ゆっくりと仁王立ちの体勢になる。
見上げるだけでも普通の家の三階部分までの身長に、いかにも金属ですといえる角ばった腕や脚などの部位。
足は幅広く四角く造られ、しっかりと体勢を保持できるものとなっている。
そして頭部は鎧の兜をやや丸くしたようなもので、顔の部分は光に反射する素材を使っているらしく中の様子が見えない。
誰かが操縦しているのか、それとも自らの意思を持って動いているのかは定かではないが、少なくとも自分たちに対して敵意を持っているのはルディアたちにもすぐわかった。
『来るぞぉ!!』
「すごく強そうだ……」
右手にはそれこそ、家の二階部分までありそうな長さの巨大で赤いロングソード……のようなナタのような長い武器を握っており、それを両手で握りなおしたジルトバートは跳び上がりながら地面に向かってそれを振り下ろしてきた。
もちろんドラゴンたちは本来の姿に戻ると同時に、人間たちを背中に乗せて空中へと避難する。
そしてその直後、ルディアが立っていた場所にロングソードが叩きつけられた。
「……おわっ、あんなの反則だぜ!!」
地響きを伴うほどの威力とともに叩きつけられたそのロングソードは、地面を軽々と陥没させて円形の斜面を造っていた。
もちろん、直撃すれば一瞬で肉の塊になることは想像に難くない。
かといって空中に逃げようとも、そのロングソードが届く範囲であればブンブンと音を立てて片手で振り回してくるものだから、地上でも空中でも油断できない状況が続くのだ。
そして騎士団のマルニスとカリスドは、ここで新たな事実に気が付いた。
「……って、え!? あれ、この声ってグラルバルトさん!?」
「ど、ドラゴンに変身した!?」
『変身というか、人間に変身していたという方が正しいのだがな。この状況だしやむを得ん。とりあえず今は説明している暇はない。この赤い大きな敵を倒したらじっくりと説明する』
「そ、そうですね!!」
いろいろな状況が重なり合って混乱するマルニスだが、確かに今やるべきことの最優先事項はこのジルトバートと呼ばれている大型人型金属兵器を倒すことだ。
しかし、その空中に浮かび上がって攻撃しようと考えていた矢先、騎士団員の二人は思いもよらない光景を目撃することになってしまうのであった。




