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39.覚醒したルギーレ

「よし、開いたぜ!!」


 ルディアの活躍によりいったんヴァレルから逃げ切って合流した三人は、彼がまた来ないうちに最重要研究室のロックを解除してもらう。

 そしてそれが外れたことを確認したルギーレの声で、一行はそのレイグラードがある部屋の中へと踏み込んだ。

 最重要研究室は大きな部屋であり、書類やら何かの実験器具やらが無造作に置かれている棚が並んでいる。

 そして一面灰色の壁が無機質さを際立たせる部屋の中央に描かれた魔法陣の上に、レイグラードが置かれていたのだった。

 研究を担当していた研究員の魔術師たちは、突然ドカドカと研究室の中に乗り込んできた三人の男女と先ほどから鳴り響く警報に戸惑いを隠せない。


「ど、どうしたんですかウォルトーク副長!?」

「緊急事態だ。陛下からの命で、俺はその剣を回収しに来たんだ!」

「陛下の!?」

「ああそうだ。これが陛下のサインだ!!」


 その正真正銘本物のサインが記されている、ザドールがいつも持ち歩いているメモ用の手近な許可証をユクスが見せると、魔術師たちの顔色がさっと変わった。


「こ……これは……! わかりました! ですが気をつけてください、この剣の魔力が少しずつ濃いものになり、量も増えてきています!」

「わかった。というわけだからルギーレ、あとはこれをお前に任せるぞ!」

「ああ……!」


 あのロックスパイダーたちを討伐した時とはまた事情が違うらしいのだが、そんなことを気にしている暇はない。

 そう決心してレイグラードを受け取ったルギーレだったが、その瞬間身体の奥底から湧き上がる妙な高揚感を覚えた。


「う……うおおおおおっ!! すげえよこれ! 前回よりも力が増してる気がするんだ!!」


 そのルギーレの様子の変化は、一緒にいるユクスも魔術に詳しいルディアもハッキリと感じ取れるものである。


「うわ、前に俺と手合わせした時よりも魔力が濃いぞ!!」

「すごい……こんなに力を感じられるなんて、やっぱりあの聖剣だからなのかしら?」


 それと同時にルギーレの全身が紫色のオーラに包み込まれていく。

 しかも気配を察知する能力までアップしているらしく、ルギーレは研究室の扉の外に妙な気配を感じ取った。


「おい、あの赤毛がもう戻ってきたらしいぜ?」

「えっ、わかるの?」

「ああ。しかもこのドアをぶっ壊そうとしてやがる。ならば先手必勝でこっちからやってやらあっ!!」

「え、あ、ちょっ!?」


 ルディアが止める前に、すでにルギーレは出入り口の重厚な両開きのドアに向かって横薙ぎを繰り出していた。

 その瞬間、ヴァレルの撃ち出してきた炎とは比べ物にならないエネルギーの衝撃波が部屋の中にいる人間たちに襲い掛かった。


「うおおおっ!?」

「きゃああっ!!」


 それと同時に研究室の外に向かって吹っ飛ばされたドアが、待ち構えていたヴァレルをも一緒に巻き込んでいた。


「ぐはっ……あ……てめぇ、何しやがった!?」

「何って見ての通りさ。今の俺はこうやって覚醒したんだ。だからお前なんかもう敵じゃないんだよな!!」


 完全に相手を舐め腐っているルギーレのセリフに、自らの赤毛に負けないぐらいに顔を真っ赤にするヴァレル。


「な、んだとぉ……!?」

「だからもうお前なんか敵じゃねえんだよ。覚悟しろよ、城だけじゃなく研究所まで燃やしてくれちまってよぉ。その代償は高くつくぜえ!!」


 ルギーレはレイグラードを振りかぶり、起き上がったばかりのヴァレルに向かって振り下ろす。

 しかし見切れないスピードではないので、ヴァレルは素早くバックステップで回避してから炎の衝撃波を地面に沿って撃ち出した。

 しかも今度は、先ほどのようにまたジャンプで回避されると先を見越してファイヤーボールも追撃で発動する。

 これでルギーレがジャンプして衝撃波を避けた先に、タイミング良くファイヤーボールが直撃する算段だったのだが、その予想の斜め上をいく行動をレイグラードの使い手が取ったのだ。


「そんな小細工、俺には効かねえんだよ!!」

「なっ!?」


 ルギーレはレイグラードに自分の魔力を込め、大きく横に薙ぎ払う。

 瞬間、ヴァレルの放った衝撃波もファイヤーボールも纏めて消されてしまった。そのルギーレの薙ぎ払いによって生み出された、レイグラードの魔力による衝撃波によって……。


「なっ、なななななっ!?」

「だから言っただろうが。お前なんかもう敵じゃねえってな!!」

「ぐほぁっ!?」


 まさかの出来事が信じられず、唖然として反応が遅れてしまったヴァレルの腹部にルギーレの前蹴りが入った。

 その蹴りで吹っ飛ばされたヴァレルは後ろへゴロゴロと転がるが、同時にレイグラードの使い手となった男の強さに思わず笑みを浮かべていた。


「へっ、へへ……そうこなくちゃな。そうやって強けりゃ強い相手ほど殺しがいがあるってもんだぜ!!」

「俺を殺すだと? 笑っちまうぜ。このまま大人しく引き下がって俺たちの前から……いや、この国から消えろ。さもないとお前の命が先にこの世から消えることになっちまうぜ?」


 これは忠告だよと最後に付け加えられたルギーレのセリフに、炎の悪魔は無言で双剣を構えた。


「まだやる気かよ? 人の忠告は素直に聞いたほうがいいぜ」

「うるせぇ、お前に指図される筋合いなんかねぇんだよこの野郎!!」


 双剣を身体の前でクロスさせ、最大限の魔力をその二本に注ぎ込み炎を生み出すヴァレル。

 少し離れているはずのルギーレにもその熱気が伝わってくるが、彼はその熱気を感じて思い出したことがあった。


「そうだ、大事なことを思い出した。この研究所の中はこいつにところどころ燃やされてるかもしれねえし、ほかにもまだ被害を受けた人間がいるかもしれねえから、ルディアと副団長はそっちの方を頼めるか?」

「えっ、あなた一人で大丈夫なの?」

「ああ。今の俺は負ける気がしねえんだよ。だからよろしく頼むぜ」


 なんとなく不安を覚えた二人だが、確かに被害の確認も大事である。

 それにこの狭い廊下で二人の近くにいたら、自分たちまで被害を受けてしまうかもしれない。

 ここはその被害を少しでも抑えるべく、レイグラードとルギーレに全てを任せた二人が駆け出して行った。

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