399.静かな理由
どうしてここまで静かなのかわからないが、確かに何だか嫌な予感がする……というのはグラルバルトの言葉である。
なので念には念を入れる形で、ルディアが探査魔術でこの広大な地下水脈の現状を探ってみることにしたのだが、どうにもこの先の進軍を邪魔されてしまいそうな現状が見て取れるのだった。
「う……これはやっぱり危険が危ないですね」
『それって変な言葉だぜ。んで……何がどうなってんだよ?』
「あの……この地下水脈の至る所に細かい魔力が固まって大きな魔力を形成しているように見えます。どうやら人間か魔物かはわかりませんが、色々な場所で集団で固まっているみたいですね……」
『それってつまり、何か目的があって固まってるってことかよ?』
『恐らくはそうだろうな。とりあえず進むしかないが、まさか待ち伏せで固まっているとしたらそれはそれで危険だな』
四名は警戒心を強めて、武器を構えていつでも戦えるようにしながら進むことに決める。
グラルバルトも普段は無手で戦っているのだが、今回ばかりは敵が大勢いるとの予想を立てて服の下から取り出した二本の短剣をそれぞれ一本ずつ両手に構え、周囲の気配を探りながら進んでいく。
その途中でマルニスがポツリと呟いた。
「まさか……僕たちがここまで来ることがバレている……とか?」
『勇者は世界中に人脈があると聞く。だからこそ、どこかから私たちがここに向かっているという話をその連中がキャッチしていてもおかしくはないかもしれないな』
グラルバルトがそう呟いた時、ふと近くの岩場の陰で何かがゴトッと音を立てて動いた。
もしかして敵か!? と全員が身構えてその岩場の方を睨みつけるが、そこから出てきたのは両手をあげて敵意がないことを示す白髪で大柄な一人の騎士団員だった。
そして、その騎士団の黄色い制服を着込んでいる男の姿を認めたマルニスが思わず声を上げる。
「か……カリスド!?」
「マルニス!! あー良かった……俺たちもうダメかと思ったぜ……」
現れたのはどうやら、先ほどマルニスに通信を入れてきたカリスドという部下らしい。
ロングバトルアックスを持っており、筋骨隆々なのが制服の上からでもわかるぐらいの大柄な体躯。年齢はマルニスよりも十歳近くは歳上だろう。
「それで一体何があったんだ?」
「ああ……俺とヘルツは一緒にあいつらに捕まっちまって、それでその後運良く二人であいつらの元を逃げ出せたんだ。だが……」
ヘルツというもう一人の部下が、この近くにいる潜伏部隊に捕らえられているようである。
正直言って彼を見捨てて自分だけ逃げるのは気が引けたカリスドだが、いくら闘技場の前チャンピオンだとしても多勢に無勢が過ぎたので、とにかく逃げることを優先しつつマルニスたちに自分たちの居場所を教えて救援をしてくれるように通信を入れたのだという。
『話はわかった。だが私たちとしても敵の戦力が把握できていない状況だからもっと詳しく教えてくれないか』
「ああ、いいぜ。とりあえずこのメンバーでそのまま突っ込むのは自殺行為かもしれねえな」
敵の数は少なく見積もっても五十人ほどはいるらしく、多分自分が逃げたのを追いかけてきている奴らもいるかもしれないとカリスドがいう。
それはつまり、ルディアの探査魔術でキャッチできた複数の魔力が固まっているものの話だろう。
「さっきからあの魔力の塊を見ているんですけど、全然動く気配がないんですよね。だからやっぱり待ち伏せされているんじゃないですか?」
『それは可能性として十分考えられるよなー。でもまあとにかく進まねえことには話も進まねえしなあ』
魔力の残滓をたどってここまでたどり着いたのはまあ良しとしても、まさかアーエリヴァについて早々こんな大掛かりなことに巻き込まれるとは思ってもみていなかったルディアとエルヴェダー。
しかしエルヴェダーの言う通り進まなければならないのは変わらないので、カリスドという仲間もできたことだし意を決して進むことに決めた。
「そういえば、そのはぐれてしまって捕まってしまったヘルツさんってどんな背格好とか、髪の色とかってわかりますか?」
「わかるぜ。髪の色は銀で、弓使いだから俺より痩せてるし小柄だ。俺と同じく騎士団の制服姿だと思う」
ヘルツという男は近接戦闘は余り得意ではないので、きっと潜伏部隊に捕らわれて拷問されているのだろうと考えるカリスド。
だがここで、心の中で引っかかっていることについてグラルバルトがカリスドに突っ込んだ。
『ところで君は逃げてきた立場なんだろう?』
「ああ、そうだよ」
『だったらどうしてこの近くに、敵の潜伏部隊がいるって知っているんだ? 私にはそれが不思議で仕方がないんだがな……』




