398.大捜索
「な……何だってぇ!?」
冷静な性格のマルニスが明らかに取り乱しているその通信内容。
それは彼の部下の一人であるカリスドという男からで、何と最悪の予想が当たっていたらしいのだ。
通信を終えたマルニスは険しい表情をさらに険しくさせ、ルディアたちを先に進むように促す。
「早く先に進みましょう」
『何があったんだ?』
「先ほどあなたたちが予想していた通り、僕の部下が勇者とその仲間たちに捕らえられてしまったそうです……」
『それはまずいな……』
もう勇者に対して敬称もつけなくなったマルニスが、いかにその勇者のやっていることに対して憤りを隠せていないかがよくわかる。
そんなマルニスにもたらされた情報は、地下迷宮ではぐれてしまったマリユスたちが大勢の一般人たちを、これまた多数の彼らの部下らしき砂漠の盗賊たちと一緒に運び出すのを目撃した部下がいるという。
「その部下からの報告では、どうやらこの砂漠を根城にしている盗賊たちを自分たちの部下として使っているらしいです。そしてそれを追いかけていったカリスドが、その先で奇妙なものを発見したと」
『奇妙なものだと?』
「はい、それは赤くて大きな人型の物体だったそうです」
「ええっ、ちょっと待ってくださいよ……それってもしかして!?」
ルディアとエルヴェダーの脳裏によぎる、遥か彼方へと炎を吐き出しながら飛んでいってしまった赤くて大きな人型の飛行物体。
それがまさかここにあるというのか。しかしなぜ?
あれこそルギーレとレイグラードが必要になりそうな相手なのだが、まさか自分たちだけで相手をしろとでもいうのだろうか。
それは考えただけでもかなり厳しそうな戦いになりそうなのだが、そもそもこの砂漠に来たのだって戦いに来たわけではないのだ。
『まあ……このまま行くとそいつらとかち合う可能性はかなり高いだろうな』
「でも、僕の部下をこのまま放っておいたら何されるかわかりません。赤い人型の兵器を追いかけてこの国までやってきたのはわかりますが、戦わずとも何とか部下を助け出せる方法を考えましょう」
幸いというべきか、そこかしこに地下通路に入ることができる出入り口が存在しているため、最悪そこに逃げ込んでしまえば巨大なあの赤い兵器も追いかけてこられないだろう。
そしてその部下からの通信があったということはまだ生きているということなのだが、ここで突っ込んでおかなければならないことがあるのを思い出したグラルバルト。
『あれ、ちょっと待て。どうして敵に捕まっているのに通信が飛んできたんだ?』
「ああ、すみません説明が悪かったですね。捕らわれたのは僕の生き残っている部下二人のうちの一人です。残りの一人がその光景を見て僕に連絡をしてきたんです」
『なるほど、それがそのカリスドという人間のことだな』
グラルバルトの確認にマルニスは頷く。
その砂漠の一角に人間たちを集めて何をさせようとしているのか?
どうせロクなことではないのはわかっているが、とにかく今は現地に向かってみないことには何とも言えないので、四名は急いで魔力を辿っていった。
そしてやっとのことで辿り着いたのは、人工で造られた地下通路とはまた別に自然にできたという、天然の地下通路の出入り口であった。
『このアーエリヴァは自然が多いことで有名なのは知っているだろうが、こうして砂漠の地下に水脈が少しだけ存在しているんだ』
「天然のオアシスですね」
『そうだ。この中に魔力の残滓が続いているということは、この中で何かをしようとしたのか……?』
中に入ってみなければ何とも言えないこの状況。
しかし、ルディアの足がなぜかすくんでしまう。
『おい、どうしたルディア?』
「いや、あの、えーと……何だか嫌な予感がするんですよねえ……」
『嫌な予感?』
予知夢を見たわけでもないのに、どうしてここまで来て足がすくんでしまうのか自分でも理解できないルディア。
しかし、だからと言ってここで立ち止まっていては話が進まないのもまた事実。
ルディアは意を決して地下水脈の中へと足を踏み入れることにしたのだが、それでもまとわりつく不安は消えない。
「……やはりここから先に向かって魔力の残滓がある。これをたどっていけば失踪した一般人たちにたどり着けるでしょう」
『ああ、それはいいんだが……』
『どうしたおっさん?』
そしてその不安は、グラルバルトも徐々に感じ始めたらしい。
何かがおかしいと……この地下水脈通路には何かがあるのだと。
この国を看視して地下通路の一角を拠点としている彼だからこそ、こうした細かな違いには敏感なのだ。
『静かすぎるんだ……やけに静かなんだよ』




