395.衝撃の事実
「傭兵みたいな格好をしてピンクの髪を持っている、若い長身の男……ねえ」
「そんな奴なんて山ほどいるんじゃないのか?」
「ああ。せめて名前だけでもわかれば一発なんだが、背格好とか容姿だけじゃ絞り込めないな」
依然、ヴィーンラディでルギーレの容態を付き添って確認しているジェクトの元に、ルディアから連絡を受けたデレクがやってきてそう言った。
確かに自分はルディアの言う通りギルドのトップではあるが、だからといってそんな断片的な情報だけでは何も絞り込めないのも事実だった。
「だってよぉ、言われた条件で絞り込んだだけでもゆうに三千人は超えているんだぜ。ギルドに登録しているのは世界中で五百万人を超えているんだからさ」
「その中から探せというのは無理に近いな」
一人ずつ、実際にその男と戦闘をしたマルニスという騎士団長に面通しでもしてもらわない限り、三千人を越す中から探し出すのは絶対に無理だと言い切れる。
そのことを魔術通信でルディアに伝えて、もっと詳しい情報はそっちで集めてくれと言って通信を切ったデレクの今の関心は、目の前に寝ているルギーレ容態であった。
「しかしまあ、どうしてまたこんなにうなされてんのかね?」
「さあな。だがこのうなされ方は尋常ではない。セルフォンの話だとレイグラードには今まで斬った人間や魔物たちの魔力が溜まって、それが知らないうちにルギーレの身体を蝕んでいたという話だったが……果たしてそんなことがあり得るのか?」
デレクもジェクトも首を傾げるばかりで、自分たちだけで答えを出せそうにはない。
セルフォンは別室で今のルギーレに効きそうな薬を調合している最中なのだが、それでルギーレが回復するという保証もないので、今はとにかくルギーレが回復してくれることと、レイグラードの新たな情報を得てルディアとエルヴェダーが戻ってきてくれることを願うだけだった。
だが、そのルディアとエルヴェダーがマルニスとともに地下迷宮の最深部で見つけたものは、レイグラードに関しての恐ろしい事実だった。
◇
「これは……」
『おいちょっと待てよ。これが本当ならルギーレ、最終的には死んじまうってことかよ!?』
「そ、そんな恐ろしいものだったんですか? あの伝説の剣って」
地下迷宮の最深部。そこにグラルバルトが休むための部屋がある。
その広さは小さな鍛錬場ぐらいであり、一般的な民家を正方形状に四つ並べたぐらいのものだ。
その一角にどこかへと続いている通路が見えるが、この砂漠の下にこんな明らかに人工的に造られた空間があるとは思いもしていなかったルディア。
そしてその考えは自然と、この砂漠を自分の縄張りとしているグラルバルトに行き着いた。
「この部屋は人間たちじゃなくて、グラルバルトさんが造ったんですか?」
『ああ。自分もたまには一人になりたい時があるからっつって、おっさんがプライベートルームとして造った場所らしいぜ。向こうに見える通路から出入り口の一つに出られるって、俺様が前にここに来た時に言ってた』
そしてそのプライベートルームの中にある木製の本棚の中には、様々な武術に関しての本が入っている。
だがその中に数冊、太古の歴史と書かれている書籍があったのでそれに目を通してみる三名。
その結果、書籍の中からレイグラードに関する情報を手に入れることに成功したのだが、それは今後のルギーレの運命を決めるのには十分すぎる内容が書かれていたのだ。
『レイグラードは……伝説の聖剣なんかじゃない。使用者となった者に纏わりつき、徐々にその精神と肉体を蝕み、やがては死に至らしめる魔剣……だとぉ!?』
「ちょっと待ってくださいよ、レイグラードをこのまま使い続けていたらルギーレは死んじゃうってことですか!?」
「そうでしょうね。今回ルギーレさんが倒れてしまったのは、レイグラードに身体が蝕まれている証拠なのでしょう」
聖剣と呼ばれているレイグラードが、まさかの魔剣?
しかもルギーレが倒れたということは、徐々に死に向かって近づいていることの証なのだろうが、そうなると一刻も早くレイグラードをルギーレから離さなければならない
しかしどうやって?
まだベティーナもマリユスも倒せていないだけでなく、このままではあのニルスという男にこの世界を好き勝手に蹂躙されてしまう。
それを止めるためにレイグラードを使ってここまでやってきたのに……。
ルディアたちはどうしても解決策を見つけられないまま、一旦この衝撃の情報を持ち帰って話を進めよう……と考えた、その時だった。




