394.流された噂
『そもそもあいつらはなー、もう勇者でも何でもねえんだよ』
「えっ、どういうことですか?」
『話すと長くなるんですけどね……」
エルヴェダーがドラゴンだということは伏せ、それ以外の今までの経緯を最深部に向かいながらマルニスに話すルディアとエルヴェダー。
当初は信じられないという表情だったマルニスも、余りにも詳しすぎるその二名の話を聞いていくうちに、作り話でこんなに話すことなんてできるものではないと考えるようになっていく。
「……つまり、勇者様たちがこの世界征服を企んでいると?」
『どーも俺様たちで調べて、色々な国を回ってきたらそうらしいってことがわかったんだよなあ』
「でも、結局腐ってもあのマリユスっていうのは勇者として崇められているわけだからねえ……」
そうした事情を知らない人間の方が、まだまだこの世界には多いのである。
そもそも勇者の言うことは影響力が絶大で、地域によっては嘘か本当か問わずに「勇者の言っていることだから間違いない」と全て信用されている所もあるほどなのだ。
それだけ勇者マリユスとその仲間たちが言っていることは信用されており、マリユスを神格視する人間も数多く存在している。
そしてそのルディアのぼやきを聞いたマルニスが、マリユスからの噂でルギーレについてのことがあったのを思い出した。
「あれ……そういえば僕も勇者パーティーの話だとこんなものを聞きましたね。確かどこかの遺跡が崩落して、そこで仲間だったルギーレって方がお亡くなりになったと」
『あいつ、そんな話まで流してんのか』
「それは嘘ですよ。じゃなかったら私もエルヴェダーさんもルギーレと一緒に行動していませんから」
死んだ人間と行動できるわけがない。
調べればすぐわかりそうな噂を流したのもマリユスなのだろうが、どうやらその噂には続きがあったらしい。
「そうですよね。ルギーレさんはまだ僕も会ったことはないのですが、レイグラードという伝説の剣に認められたとその後に聞いています。その遺跡崩落の時に、勇者のマリユス様がルギーレさんを庇って下敷きになりかけて、それをルギーレさんは踏み台にして逃げようとしていたって話でしたが、それも全部嘘なんですね?」
「嘘以外の何でもないですよ。それじゃまるでルギーレがとんでもなく嫌な人間だってことで話が広まってそうなんですけど……」
ルギーレを貶めようとしているのがありありとわかるマリユスたちの嘘なのだが、そのルディアの話を聞いていたマルニスが神妙な顔つきになって考え込み出した。
「……となると少々まずいですね」
『まずいってどういうこった?』
「その噂を流したのがマリユス様だっていうのはわかりましたが、先ほども言いました通りその噂を「勇者の話だから」と無条件で信じてしまう人間は数多くいます」
だからそうした人間たちが集まるような場所には、近づかない方が無難ですねと忠告するマルニス。
しかし何という噂を流しているのだと、マリユスたちに対して憤りを隠せないルディアとエルヴェダー。
実際にはこの世界に災いをもたらそうとしているマリユスたちの方が、どう考えたってろくな人間ではないのだから。
だからこそ、何としてでもあのマリユスたちを含めた敵対勢力を全て倒さなければならないとわかってはいるものの、肝心のルギーレは現在ヴィーンラディで倒れてしまっている。
だがそれよりも気になるのは、マルニスがこの地下迷宮で戦ったというピンク色の髪の毛を持っている謎の強敵だった。
「でも、また新しい敵が増えちゃいましたね。マルニスさんが戦ったっておっしゃっていた、そのピンク色の髪の男は一体何だったんでしょう?」
「姿格好から見ると傭兵みたいな男でした。それにどうやら剣だけではなく弓など他の武器も使えるみたいですから、よほどの手練れであると見受けました」
そもそも、あんな一瞬のうちに二回も自分が突き刺されていたなんて。
それだけの速さを持っている高速突きこそ、彼の得意技なのだろうと推測するマルニス。あんな冒険者がいるなんてまだまだ世の中は広いのだと痛感する。
その話を聞いていて、ならばと心当たりに探ってもらえるように提案するルディア。
「そうなんですね。でしたらヴィーンラディのデレクさんにお願いしましょう」
「ああ……確かヴィーンラディの冒険者ギルド長の?」
「はい。彼ならきっと冒険者たちの情報をすぐに集めることができるはずです」
冒険者のことは、ギルドの人間が一番よく知っているはずだ。
マルニスも昔は冒険者だったのだが、今は正式にアーエリヴァ帝国の騎士団長となっているのでギルドから離れて長いこともあり、ここはそのデレクの情報網で謎の強敵についての情報を集めることに決めた。




