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390.サソリの視点

「ちょ、ちょっとこっち来ましたよ!!」

『足を止めるな!! 全力で逃げ続けろ!!』


 まずは魔力が高いこの人間二人を食べることにしよう。

 赤い男の方はこれまでに感じたことがないぐらいの魔力を持っているみたいなので、これは食べるのが楽しみになってきた。

 でも曲がるのはこんなに大きな身体で苦手だ。

 それでも魔力を辿っていけば……ほら、ちゃんと行き止まりに追い詰めることができたじゃないか。


『キシャアアアアアッ!!』

「い、行き止まりですよ!!」

『くっ……』


 こうなったら後はもうジックリと食べてしまうだけだ。

 反撃してくるんだったら自分も戦うけど、今は腹が減っているので一気に押し潰してしまおう。

 そうすればすぐに美味しいご馳走が食べられるというものだ。


「いっ、いやいやいや!! それはまずいですよ!!」

『俺様だってお前と同じ考えだ。だが、あの大きなサソリを相手にしてこんな場所で戦っても揃って押しつぶされて終わるのが目に見えちまうぜ!!』


 何かを相談しているみたいだが、この通路の横にも縦にもほとんどの空間を使っているこの巨体から逃げられるはずがない。

 せいぜいあがくがいいさ。

 どうせ壁に挟まれて死んだ後は、自分の腹の中に収まるだけなのだから。


『よし……行けっ!!』

「う……うわあああああっ!!」


 うるさい叫び声を上げながら向かってきたって、結果は同じだよ人間。

 それにそんな小さい身体で自分にぶつかりにくるなんて、やけになっての特攻としか思えないんだよ。

 だったら自分の無力さというのをしっかりと思い知って、自分に喰われればいい。

 だがその時、不意に地面が揺れる気がした。

 それと同時に、ピシリと嫌な気配のする音が上から聞こえてきたがきっと気のせいだろう。

 ここは割と脆い造りをしているんだし、そんなに簡単に崩れるわけがない……。


『グガッ!?』


 頭に降り注ぐ強い衝撃。

 それから外の空気の臭いに、細かい砂が続けて山のように……いや、文字通りの山となって天井から降り注いできた。

 思わずバランスを崩してしまった自分の身体の上を、全力疾走でさっきの女二人のうちの一人が駆け抜けていく。


『グガッ、ギャウウウッ!?』

『今度はこっちだ!!』

『ギュエ!?』


 もう一人の男の声が聞こえる。

 それと同時に、左右の壁が自分を思いっきり挟み込む感触を味わった自分の意識はだんだんと薄れていく。

 一体何が起こったんだ?

 もしかしてあの女が何かしたから、自分はこんな状況になってしまっているのか?

 それがよくわからないまま、自分の意識はそこでプッツリと途切れて……何も聞こえず何も見えなくなってしまった。



 ◇



「あー、死ぬかと思った……」


 今しがた自分が乗り越えてきた巨大サソリの死骸を後ろに振り返って目にしたルディアは、一歩間違えば自分まで巻き添えを食らっていたであろうその惨状に対してホッと胸を撫で下ろした。

 彼女の視線の先ではすでに物言わぬ置物と化している巨大サソリと、そのサソリを一気に押し潰してしまった崩落した天井と挟み込む壁の姿があったからだ。


『これでもう大丈夫だ。マルニスたちと合流しに行こうぜ』

「そうですね。でもまさか、あんな無茶なやり方でこうやって成功するとは思わなかったですよ」


 サソリに迫られているあの時、エルヴェダーがルディアに耳打ちしていた作戦はこうだった。


『いいか、俺様が天井を崩してあいつを潰す。お前はあのサソリの上か下を走ってそれに巻き込まれないようにしろ!!』

「いっ、いやいやいや!! それはまずいですよ!!」

『俺様だってお前と同じ考えだ。だが、あの大きなサソリを相手にしてこんな場所で戦っても揃って押しつぶされて終わるのが目に見えちまうぜ!!』


 ルディアまで崩した天井の下敷きになってもおかしくなかった今回の作戦。

 しかしエルヴェダーに物理的な意味で背中を押されてしまい、もう行くしかないとルディアは自分の運を信じて駆け出した。

 目の前に迫る巨大なサソリ。左右に通り抜けられるスペースはない。

 このまま行けばサソリの下を通るしかなかったのだが、その前にエルヴェダーが行動に出る。


『はっ!!』


 天井に両手をつけて魔力を送り込み、まずは一時的に天井の強度を最低限まで低くしておく。

 そこから特大のエネルギーボールを生み出して、サソリが来るタイミングを見計らって強度がなくなっている天井に向けて撃ち出す。

 するとガラガラと音を立てて天井が崩壊し始める。


「うえっ!?」


 サソリの下を通り抜ける手筈でいたルディアは、意外に崩落が早かった天井とそれに潰されて体勢を低くするサソリを見て、咄嗟の判断でサソリの「上」に走る方向を変更する。

 下も左右も通り抜けられないなら、潰される危険性があるとしても上しか通れる道がないからであった。


「う……うわああああああっ!!」


 運動には自信がないながらも、一瞬の判断の連続でルディアはサソリの上を駆け抜けて崩落する天井に巻き込まれないように渡り切ることに成功。

 だが、さすがに天井を崩しただけではサソリを倒し切ることができずにまだ動いていたのだ。

 これではサソリが再び動き出してしまうと判断したエルヴェダーは、トドメに壁に魔力を送り込んで動かせるようにし、一思いにサソリを壁の間に全力で挟み込んで絶命させた。

 こうして巨大サソリとの死闘を終えた予言者とドラゴンだったが、まだまだこの地下迷宮での目的は終わっていないのである……。

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