389.地下迷宮のヌシ
巨大な敵と戦うのは、いかんせんこの場所では分が悪すぎる。
更にこんな場所で大勢で固まっていたら全員いっぺんにやられてしまう可能性が高いので、ひとまずここは地図も手に入れたことだし何方向かに散開し、サソリを撹乱することにした。
だが、途中の分かれ道で何人かに分かれて別々に進んで行った結果、サソリが目標として選んだのはルディアとエルヴェダーの二名だったのだ。
「ねえちょっと、私たちって今どこを走ってんのよ!?」
『確認する余裕なんかない!! とにかく走れ!!』
サソリはその身体の大きさゆえに小回りが利きにくいようで、曲がり角では方向転換に苦戦を強いられている。
なのでなるべくルディアとエルヴェダーは方向転換をしながら進むものの、その先に待ち受けていたのは絶望だった。
「えっ……」
『行き止まりだ!!』
何と、この地下迷宮の行き止まりにたどり着いてしまった二名。
引き返そうにも後ろからはサソリが追いついてきてしまったため、完全に逃げ場がなくなってしまった。
となれば戦うしかないのだが、正攻法で真正面から戦っても勝ち目は薄いだろう。
ここでできることといえば、非常にリスクが大きいがその分このサソリを一撃で仕留められるあれしかないだろうなあとエルヴェダーは考える。
『ルディア、ちょっと耳を貸せ』
「え……?」
別に人間を相手にしているわけではないので、だんだんと自分たちの方に近づいてくるサソリに言葉が通じるわけはない。
しかし、何となくそうしてしまうエルヴェダーはルディアに対して自分の考える作戦を耳打ちした。
それを聞いたルディアは、かなり無茶苦茶な作戦に首を横に振って冷や汗を流す。
「いっ、いやいやいや!! それはまずいですよ!!」
『俺様だってお前と同じ考えだ。だが、あの大きなサソリを相手にしてこんな場所で戦っても揃って押しつぶされて終わるのが目に見えちまうぜ!!』
ならばその分、リスクがあってもサソリを一撃で撃破する方法があるのならそれに賭けるしかないのだ。
そこでルディアに対して、エルヴェダーはまず強力な魔術防壁をかけておく。
その代わりこの作戦には多量の魔力が必要なので、ルディアの魔力を少し分けてくれと頼み込むエルヴェダー。
「気が進まないけど、それしか手がないんだったらやるしかないか……」
ルディアも覚悟を決めて、エルヴェダーの両手を自分の両手で握りしめ魔力を分け与える。
その間にもせっかくここまで追い詰めた人間たちを押し潰してエサにしようと、サソリがものすごい勢いで二名に向かってくる。
それを見て、エルヴェダーはルディアの背中に自分の右手を当てた。
『よし……俺様が合図を出したら走るんだ!!』
「う、うん!!」
一歩間違えば自分まで巻き添えを喰らって死ぬ可能性が高い作戦だが、むざむざやられてしまうよりかはよっぽどマシなので、ルディアは気合を入れて両足に力を込める。
その気迫を感じ取ったのか、サソリも更に速度を上げて二名を押しつぶすべく向かってくる。
『……よし、行け!!』
頭の中での思いつきでしかないが、やるしかない。
エルヴェダーの手がルディアの細い身体を、サソリが向かってくる方向に向かって押し出した!!
◇
さて、今日の獲物はどこかな?
巨大なサソリがそう考えながら地下迷宮を徘徊していると、人間たちの匂いが漂ってきたのでそちらへと足を向ける。
何人もの人間たちが、自分が王者として君臨しているこの地下の迷宮に入り込んできた。
そこで自分を倒そうとして、武器を持って襲いかかってくる。
しかし、いくら力を持っているといっても所詮は人間である。
人間ごときが、圧倒的な力を持っている自分に対して立ち向かおうなどとは笑わせてくれる。
実際にそんな思い上がった人間たちを、自分は今まで何人もエサとして美味しく食べさせてもらった。
最近は奇妙な人間たちと、それを生み出す人間たちがこの地下迷宮に入ってきているらしいが、あの奇妙な人間たちからは食べてはいけない雰囲気を感じるのでそっちには手を出していないんだけど。
そんなこんなで今日もまた獲物を探して地下を徘徊していると、外から冒険者の集団がやってきたらしいのでありがたくいただくことにする。
『やべえ、サソリでかいぞ!!』
「とにかく今は逃げるんですよ!!」
男女入り混じったその冒険者たちだからこそ、ご馳走にありつけそうだ。
こうやって必死に逃げて、そして追い詰めれば追い詰めるだけご馳走にありつけた時の満足感は大きくなる。
今もこうして必死に逃げている人間たちを自分がこうやって追い詰めているので、誰を最初に追い詰めるかと考えながら追いかけている。
すると人間たちは姑息な手段に出てきた。
「僕たちはこっちに行きます!!」
「じゃあ私たちは向こうに行きます!!」
どうやら目標を絞らせないために別々に逃げることにしたみたいだが、だからといって手間が増えるだけで自分が追いかけていた人間たちを喰らい尽くすのに変わりはないのだから。




