388.失踪?
「あの……失踪事件が続発しているんですか?」
「そうなんですよ。帝都を始めとして色々な町や村から失踪している住民の情報が入ってきているんです。それでつい最近も新しく失踪事件が発生しまして、砂漠で怪しい人影が目撃されているのもありまして、サソリの討伐とともにその調査もしに来たんです」
『ふーむ、そうなるとこの地下迷宮を隅々まで捜索する必要がありそうだな。俺様たちもこの砂漠の調査を依頼されたものだから、協力した方が良さそうだが……構わないか?』
「ええ、もちろんですよ。あ、地図は持っていますか?」
『ああ、持ってるぜ』
「では大丈夫ですね。それでは僕たちと一緒に行動しましょう。よろしくお願いします」
こうしてマルニスと彼の部下の二人の騎士団員が仲間に加わったわけだが、そのうち部下の騎士団員たちがマルニスに対してそっと耳打ちをする。
「団長、あの髪も目も赤い槍使いのエルヴェダーという人、何かおかしくありませんか?」
「え? 何が?」
「あの人、とんでもねえ魔力量の持ち主ですぜ。それからあの金髪の女もそうですよ。向こうは冒険者でここに依頼を受けてきたんだって言ってますけど、これは何かあると思いますぜ……」
そう言われてみれば、二人とも何か違和感を覚えるマルニス。
これは一応注意をしておいた方がいいかな……と考えながら先導を始める彼だったが、その余裕もないほどの敵がこの先に待ち受けていることなど知る由もなかったのだ。
「うわああああっ!!」
「くっ、ここまで数が多いとは想定外もいいところだ!!」
少し進んだ先で現れたのは、小さいサソリと武装した人間の集団だった。
それぞれが別々に現れるだけでもなかなかの脅威だというのに、しょっぱなからこうして一緒に現れてしまうと非常にやりにくい。
しかも奇妙なことに、サソリたちと人間たちは徒党を組んでいるらしくお互いを攻撃するような素振りを見せていないのである。
これは奇妙な展開だと考えるマルニスたちだが、一緒に戦っているエルヴェダーたちにはおおよその見当がついていた。
『おいルディア、お前にはわかるか?』
「ああ……多分このサソリたちも、裏で誰かが操っているんじゃないかって考えてしまうんですよね」
『俺様も同じだ』
いくら広さに余裕がある地下迷宮とはいえ、大きな魔術を使えば味方にも被害が出てしまうため、その巻き添えを嫌ってルディアは威力のある小型魔術で敵を倒していく。
恐らく、この先にはこんな人間やサソリなど歯牙にもかけないほどの強敵がいるような気がしながら……。
そう思いながら進んで行った所で、死を覚悟するほどの事態が待ち受けていた。
「きゃあああっ!! こんなに大きいなんて!」
ルディアは絶叫しながら、地下迷宮の中を右へ左へと駆け抜ける。
その斜め後ろではエルヴェダーがついてきており、更にその後ろからは大きい割にかなり素早い動きをしながら追いかけてくる、巨大なサソリの姿があった。
そして自分たちだけがそのサソリに追われているという、非常に不利な状況になっている。
何がどうしてこうなったのかといえば、マルニスたちと出会って少し進んでいた頃に話は遡る。
「くそっ、ここにも敵が!!」
「多すぎだな……」
マルニスの部下の騎士団員たちが、悪態をつきながらも再び出現した人間とサソリの討伐を開始したまではよかった。
だが、通路のスペースに限りがあるためその戦いには参加せず成り行きを見守るだけに留めておこうと考えたエルヴェダーたちの後ろから、これまでとは違うすさまじい気配がものすごい勢いで近づいてきた。
『まずい!!』
「えっ? 何がです?」
人外であるエルヴェダーが最初にそれに気がついたのだが、人間たちにとってはまだその気配を感じ取れる距離ではなかった。
何がまずいのかを問いかけるルディアに対し、エルヴェダーは彼女の手を引っ張りつつ走り出す。
『まずい、逃げるぞ!! このままではやられるぞ!!』
「えっ、ちょ、ちょっと!?」
突然の展開についていけないルディアだが、それでも逃げるしかないらしいとわかったのは、自分たちの背後から大雨が降り注ぐ音と金属を引っ掻いたような気持ち悪い音が混ざり合った声が聞こえてきたからだった。
『キシャアアアアアッ!!』
「うわっ!? あれは……!!」
『やべえよあれ、反則だろあんなもん!!』
後ろから聞こえてくるその声に、ルディアとエルヴェダーは揃って後ろを振り返りながら驚きの声を上げる。
それもそのはずで、二名の視界に飛び込んで大きくなってくるその影こそ、この地下迷宮のヌシと言われている巨大サソリだったからである。




