387.出会ったのは?
『サソリだけならまだよかったんだが、ここに多数の生物の反応があったんだろう?』
「そうですね。私が先ほど探査魔術でここの全域を調べたら、おびただしい数の生物の魔力がありましたよ」
『だとしたらますます厄介だな。勇者の存在もあるし、もしそいつらの仲間がここにいるとなると……』
とにかく用心するに越したことはないので、ルディアたちが警戒心を高めながら進んでいた……その時だった。
「……待って、話し声が聞こえますよ」
『……本当だ』
耳に魔力を集中させて一時的に聴覚を敏感にしていたルディアが、エルヴェダーの前に躍り出て危機感溢れる報告をする。
どうやら通路の先の曲がり角の向こうから、誰かが歩いてきているみたいだ。
それも一人ではなく何人かで会話をしながら来ているらしいので、自然とルディアとエルヴェダーも武器を構えてその声の主たちと遭遇するのを待つしかなかった。
『おいルディア、相手がなんて言っているかわかるか?』
「ん……声が小さくてよく聞き取れないですけど、討伐がどうのこうのって言っています」
『なるほど。感じる気配からすると人数は三人だな……』
どうやらサソリの討伐にやってきたらしい冒険者(?)の三人組の姿が、ルディアとエルヴェダーの声とともに姿を見せた。
「んっ? あなたたちは冒険者か?」
現れたのは黄色い制服を着込んでいる男三人。
その内の一人はやや長めの茶髪に青い瞳の細身の男で、腰にロングソードをぶら下げており、服装や装備品からすると何者なのかは大体察しがつく。
しかしルディアたちにとっては初めて見る顔なので、ここは二名を代表してルディアが茶髪の男の質問に答えようとしたのだが、彼よりも先に口を開いたのはエルヴェダーだった。
『んん? お前たちはもしかして……この国の騎士団員たちじゃないか?』
「ええ、そうですが?」
「……って、もしかしてあなたは勇者についていったっていうマルニスさんたちですか!?」
「はい、そうです。ところであなたたちは?」
まさか、あのオアシスの町で聞いていたマルニスとの出会いにルディアはテンションが上がり始める。
だがエルヴェダーがドラゴンだということを話すとややこしくなりそうなので、そのことだけは伏せておきルディアが簡潔に自分たちのことを説明する。
一方で、このマルニスにも自己紹介をしてもらう。
「改めまして。僕はアーエリヴァ帝国騎士団の団長をしているマルニス・クルセイダーです。この二人は僕の部下です」
第三者から見ればなぜ騎士団がこんな所にいるのだろうかという疑問もわいてくるが、そこは先ほどルディアとエルヴェダーがオアシスの町で聞き取ってくれた通りだった。
「最近、この地下通路にサソリの集団が大量発生しているという話を聞きまして、僕たちが部隊を率いて討伐に来たんですよ。それから勇者様も一緒に来てくださるって話でしたので、彼の護衛も兼ねてるんです……ん?」
その時、マルニスが悪寒を感じた。
そしてその悪寒の正体が、この地下迷宮に嵐を呼ぶことになる!
「……っ!?」
「えっ、人間!?」
近づいてきた悪寒の正体はマルニスたちと同じく、またもや武装した人間たち。
しかし六人いるその誰もが目に光が見られない。
それを見たルディアが恐怖心を言葉として出す一方で、マルニスがロングソードを構えながら叫ぶ。
「ねえ、この人たちって何なの……!?」
「くっ、ここは僕たちに任せて逃げてください! 恐らく前に話が出ていた、奇妙な薬を使われている人間たちなのでしょう!』
「く、薬!?」
ルディアがそういうと同時に一斉に襲いかかってくるその人間たちだが、騎士団員として日々鍛錬を積んで、ここまで様々な敵を倒してきているマルニスたちには敵わない。
あっという間にその六人全員が倒されてしまったが、問題はこの先この地下迷宮のそこかしこにこういう人間たちがうろついていることである。
その一方で、今しがた倒した人間たちを見たマルニスがその人間たちに見覚えがあることに気がついた。
「あれっ? この男の人って帝都から失踪したって話があった南区画の雑貨屋の店主じゃないか! それにこっちの女の人は旅に出るって言ってそのまま行方不明になっていた宿屋の跡取り娘!! くそっ、何がどうなってるんだよこれ!!」
マルニスは呆然とした表情になった後、怒りを隠しきれずに歯ぎしりをして頭を左手でガシガシと掻きむしる。
どうやら今のマルニスのセリフを聞く限り、帝都を始めとするアーエリヴァの各地で失踪者が報告されており、ここに運ばれたその失踪者たちが意思を持たない兵士として使われているのだろうと頭の中で結論付けるルディアとエルヴェダー。
だが、それ以上に気になるのはどうしてマルニスがマリユスと一緒にこの地下迷宮に入ったはずなのに、一緒に行動していないのかということだった。




