384.いざ、北へ
アーエリヴァといえば、以前ティレフをバーレンまで送り届けてくれた黄色いドラゴンのグラルバルトの看視対象となっている、この世界で最も広い国土を持っている国である。
そして以前、麻薬組織とは別に目撃されていた赤い人型の金属製の大型兵器を追いかけていた時に、アーエリヴァから入国許可が下りずに追跡を諦めてしまったのは記憶に新しいところだ。
そのアーエリヴァは確かに大きな砂漠があり、アーエリヴァの国土の広さを証明するとともに有名な観光スポットになっている。
『その砂漠の中には地下迷宮があって、いろいろな冒険者たちがいろいろな魔物たちを倒すために入り込んでいたり、盗賊団が根城にしていたりという混沌とした場所なんだが、もしかしたらそこにそなたたちが向かうことでレイグラードの新たな事実がわかるかもしれないな』
「とにかく行ってみないとわからないということですね……わかりました。それじゃあアーエリヴァに向かって出発……と言いたいんですけど……」
ルギーレとレイグラードをここに残したまま、ルディアだけでアーエリヴァまで行くのは正直言って心細い。
だが、それでもルギーレが倒れてしまった原因を探るためにはアーエリヴァへと行かなければならないのが現実である。
それにこのヴィーンラディでの麻薬事件はひとまず一件落着したわけだし、それを考えるとやはりこのタイミングでアーエリヴァへと向かうしかないと考えた。
「えーと……今回は私一人で行かなければならないんですかね?」
「そうだな。俺たちヴィーンラディの関係者は全員今回の麻薬事件の捜査や後始末の続きがあるから、少なくとも俺たちはあんたとは一緒には行けないぞ」
デレクにそう言われてしまったのは予想の範囲内だったが、ジェクトからも首を横に振られてしまった。
「俺もルギーレの監視役を頼まれてここまできているわけだし、彼がこんな状態では放っておけないからな」
『後、吾輩も一緒には行けんぞ。お主たちヴィーンラディを看視する立場なのだから、この国で起こったことはしっかりと最後まで付き合わなければならない』
それが吾輩に課せられた使命だからなと、ハッキリ言い放つアサドールに対してルディアは黙って頷くしかなかった。
そしてセルフォンはルギーレの看病でここにいなければならないということで、
結局アーエリヴァに向かうのはルディアと、赤いドラゴンのエルヴェダーの二名のみとなった。
「でも……こんなこというと失礼かもしれないけど、私たちだけじゃ何か不安ですよ」
『だーいじょうぶだって!! 俺様だってこの世界を看視する立場のドラゴンの一匹なんだから、そんじょそこらの奴らには負けたりしねーよ』
「うん……それじゃお願いします」
ここにきてルギーレが倒れてしまっただけではなく、ずっと戦線離脱の状態が続いているとなれば、ルギーレが取り逃がしてしまったベティーナという金髪の女を始め赤くて大きな人型の金属製の兵器なども見つけなければならない。
本来の目的こそレイグラードにまつわる何かを見つけることなのだが、きっとこの新しい地であるアーエリヴァでも何かが起こるに違いない……とルディアは考えてしまう。
(それが何かはわからないけど、私は進むしかないわね)
覚悟を決めたルディアは、ドラゴンの姿に戻ったエルヴェダーの背中に乗り、北へと向かって飛び始める。
もちろん向かうは砂漠地帯なのだが、ここで心配事が。
「そういえば砂漠って暑いじゃないですか」
『ああ、そーだな。暑いのは嫌いか?』
「そこまでじゃないんですけど、この格好だとさすがに身体にこたえるから、水分補給だけはしっかりしていこうと思って」
今のルディアは暗めの色をしている裾の長い上着に、茶色と黒でカラーリングされたロングブーツ、さらに黒の皮手袋といういかにも熱のこもりそうな服装をしているのである。
これが例えば雪国とかであれば防寒として心強いのだろうが、さすがに砂漠を歩くのにこのような服装だとどうしても躊躇してしまう。
「どこか町に降りて、お腹を満たして水を買い込んでから向かいませんか?」
『ルギーレが倒れちまったってのによくそんなことが言えんな。ま……いいや、確かに準備は必要だし、ヴィーンラディの連中が何か持たせてくれると思ったら何も持たせてくれなかったしな』
それこそ水などの何かしらの援助を期待していたエルヴェダーとルディアだったが、向こうも麻薬事件のことで頭がいっぱいでてんやわんやしていたこともあって、何も貰えずにここまでくる羽目になってしまった。
そうなると心細いのは確かなので、まずは砂漠の中にあるオアシスの町に立ち寄っていろいろと買い揃えようと決めたエルヴェダーだが、そこでルディアともども新たなる仲間たちに出会うとは思いもしていなかったのだった。
第八部 完




