383.え?
「えっ、どういうこと?」
『だから恐らく、これは今まで倒してきた魔物だったり人間たちだったりの魔力を体内に溜め込むようになってしまったから倒れたんじゃないか、ということだ』
忙しい合間を縫って、ルギーレの病状を診断するためにわざわざここまで飛んできてくれたセルフォンがいうには、ルギーレの体調不良の原因は今までの戦いの戦歴かもしれないとのことだった。
しかし、後にも先にもそんな話は聞いたことがないルディアたち。
なぜなら、ルディアはまだしも他の一緒に戦ってくれていた人間たちやドラゴンたちは、それぞれがいくつもの戦場を駆け回ってきて生き残ってきた実力者ばかりだからだ。
今のところ、その人間たちが戦いの中で倒した敵の魔力を溜め込んで倒れた……などという話は聞いたことがない。
「魔力を溜め込んで倒れただって? そんなバカな話があるもんか」
「俺たちも聞いたことがないな。あんたたちはそういうの聞いたことがあるか?」
呆れたようにそう呟くヴェンラトースの横で、デレクが人間の姿のドラゴンたちに質問する。
しかし、三匹のドラゴンたちは首を横に振るばかりだった。
『俺様たちもそんなの初耳だぜ。何千年も生きてっけどよぉ』
『吾輩もエルヴェダーと同じだ。とりあえずこの状態じゃあどうにもならんから、まだしばらく様子を見るしかなさそうだぞ』
『そうだな。しかし……もしかするとその魔力を溜め込む原因となったのは何かというのが何なのかはわからないでもない』
そう言いながら、ルギーレの診察をしているセルフォンはベッドの横に立てかけられている赤い柄のロングソードを手に取った。
『原因は十中八九、このレイグラードだと言っていいだろう』
「こ……これが原因?」
『ああ。レイグラードを使う前のルギーレがどう戦ってきていたのかは知らんが、少なくとも敵を倒してこうして倒れるようなことはなかったはずだ』
しかしレイグラードを手に入れてから、いい意味でも悪い意味でも、精神的にも身体的にもルギーレは変わったのだろと推測するセルフォン。
『確か以前にもこうしてルギーレが倒れたことがあったらしいが、その他にもこのレイグラードを手に入れてから何か変わったことはなかったか?』
「あ……そういえば性格が変わったことがあったって話を彼がしていたわね」
そこまで大袈裟なものだったわけじゃないけど……と前置きした上で、いつの戦いだったかを思い出しつつ、ルギーレが語っていた内容をセリフ込みで話すルディア。
それはルディアが捕らえられてしまったとの話を聞き、シューヨガという町に向かってから爆弾が入っているバッグを持たされて、ベティーナの指示に従っていろいろな場所をたらい回しにされた後の、ベティーナと戦っていた時のことだった。
「は……こんなクソ女に俺が手こずっていたなんてバカみてえな話だぜ」
「な、何ですって!?」
「そういきがんなよ、この威勢だけ女。お前なんかこれから十秒でノックアウトしてやんぜ。せーぜーその後ろで縛った長い金色の髪の毛が乱れねえように気をつけるこったなぁ!?」
「……あんた、誰なのよ!?」
オリンディクスを構え直したベティーナは、再び得意の高速突きを繰り出すべくルギーレに向かっていく。
その元仲間を見て、ルギーレは肩をすくめるほどの余裕があった。
「やれやれ……ザコが突っ込んでくるなんて、エサが飛び込んで来んのとおんなじだぜぇ!!」
「ぐええっ!?」
ルギーレに投げ飛ばされて岩壁にぶつかったベティーナは、手からオリンディクスを取り落としてしまった。
「げは、ぐふっ……バカな、こんなことがあってたまるかっ……」
「バカじゃねえ。お前なんか十秒で倒せるっつっただろーがよっ!!」
「ぐっ!?」
このように、今まで手こずっていたベティーナに追い詰められてしまった時に一気に覚醒した……ということを話していたルギーレだったが、それももしかするとレイグラードの影響だったのかもしれない。
その話を聞き、セルフォンはふーむと考え込む。
『こちらでは原因の究明ができそうにないな。恐らくレイグラードの使いすぎとその魔力による負担が一気に身体を蝕んだことで倒れたのかもしれないが、これはどうやらレイグラードそのものに何か秘密がありそうだ……あ!』
「どうしたの?」
『もしかしたら、アーエリヴァのあそこにならレイグラードの情報が眠っているかもしれないな』
あそことは一体どこなのか?
レイグラードにまつわる情報を手に入れられるのであれば、それが藁だろうがデマだろうがすがりたい気持ちで一杯なルディアに対し、セルフォンはこう答えた。
『アーエリヴァの砂漠の地下にある迷宮の最深部だ。そこになら何かあるかもしれない』




