380.大捜索
そんな少しでも感じる麻薬の匂いをたどり、たまには行き止まりに当たって引き返し、さらには大型の魔物に邪魔をされたりしながらも何とか匂いを辿っていくルディアたち。
アサドールの看視対象地域でもあるこのヴィーンラディは彼が案内役となり、森の中では火に弱い魔物ばかりが出てくるので戦うのはエルヴェダーが中心となる。
ルディアはドラゴンたちのサポートに回りつつ、探査魔術を使ってどこかにあの落下傘で降りて行った人間たちの痕跡がないかを確かめつつ進む。
するとその道中で、木の枝に引っかかっている黒くて大きな布があった。
「あれ、これって確かあの時飛行船から飛び降りて行った人たちが使っていた落下傘じゃないかしら?」
『ということはやっぱあいつら、こっち側に進んできたってことなんだろーな』
さすがにこの周辺には騎士団の監視所があるわけでもなく、人間たちを見つけて目撃証言を得るというのは不可能に近いだろう。
だとすればこの周辺を徹底的に捜そうということで意見がまとまったところで、ふとルディアの表情が変わる。
「ん……あれ、この近くに複数の魔力反応があるわ。これは魔物の類じゃなくて人間みたいだけど……」
『本当か? だったら行ってみよう』
はやる気持ちを抑えながら、周囲の様子を窺って慎重に進むルディアたち。
そのまま森の中を抜けていくと、今度はアサドールが麻薬の匂いが強くなってきたと言い出したのだ。
『む……これは麻薬の匂いだな。どう考えても先ほど吾輩たちが嗅いだものとは違う、新しい麻薬の匂いだ』
「やっぱりこの近くにいるってこと?」
『そうとしか考えられねーよ。じゃなきゃさっきみたいに降りてった奴らの使ってた傘なんて見つからねえだろ』
しかし、ルディアは何だか嫌な予感がしていた。
確かに麻薬組織の連中や騎士団員たちがこの近くにいるのはわかるのだが、それにしては不気味なほど静かすぎるような気がするからだ。
そのことをエルヴェダーとアサドールに伝えると、ドラゴンたちは再度自分たちの周囲の気配を探ってみることにする。
『……近くには多数の魔力を感じられる』
『俺様も同じだ。今わかることはその多数の気配が動いたり動いていなかったり、それぞれ魔力が多かったり少なかったりでてんでバラバラな存在ばっかりだってこった』
どうやら近くでは何かしらの陰謀がうごめいているのかもしれないし、自分たちの思い過ごしかもしれない。
どちらにしても警戒するに越したことはないと思っていた矢先、ルディアの身体をいきなり衝撃が襲う。
「っ!?」
『くっ!「』
何が起こったのか?
それは右斜め前からただならぬ気配と風を切る音をキャッチし、とっさに身体が動いたアサドールが自分に覆い被さってきたからだとわかったのは、自分が地面に押し倒されてから数秒後だった。
「なっ、んなの!?」
『敵襲だぜ!! 俺様たちが来るのを奴らが待ち伏せしていたらしい!!』
「待ち伏せ……!?」
確かに赤と緑のドラゴンが揃って空を飛び、しかもその向かった先が飛行船が消えて行った方。
そして戻ってきたかと思えば自分たちのいる場所の近くに降りてきたのだから、それは何かしらの手を打たない方がおかしいというものだ。
そんな敵の待ち伏せに遭ってしまったルディアたちだが、すぐに体勢を立て直して次々に現れた敵たちに対して迎撃を開始する……が!?
『……なっ!?』
「どうしたの?」
『攻撃が効かねえだと!?』
「え……!?」
向かってきた麻薬組織の人間たちに、自慢の火の魔術をお見舞いしてやるエルヴェダー。
しかしなんと、その人間たちは業火に飲まれて消し炭になってしまうのかと思いきや、服だけが所々焼けこげているだけで何事もなかったかのように炎の中から現れて突進してきたのだ!!
何がどうしてそうなっているのかはわからないが、とりあえずエルヴェダーの炎系統の攻撃が効かないことはわかった。
『くっ、ならば仕方がないな!!』
攻撃が効かないのであれば、とりあえず捕まえておくことはできるだろう。
ルギーレのレイグラードがあればまたどうなるかはわからないが、ひとまずアサドールの植物を操る魔術によって木の根っこや枝を使って向かってくる人間たちを次々に拘束していく。
だが、次から次へとそこかしこから出てくる待ち伏せの人間たち、さらには使役しているのであろう魔物たちの姿もあってキリがない。
ならどうするかといろいろと考えた結果、アサドールがある場所へと向かって敵たちを誘導し始めた。




