377.再び倒れるルギーレ
「おいルギーレ、しっかりしろ!!」
「くっ、一体何があった!?」
『わからん……ただ、ルギーレがいきなり苦しみ出して……!!』
南の船の上では、ジェディオンを倒したルギーレがいきなり苦しみ出して倒れてしまっていた。
ひとまず強力な魔術を使えるアサドールが回復魔術をかけてみたものの、それでもルギーレの体調は良くなる兆しを見せていない。
とにかくどこかで休ませないといけないため、船の上から降ろして近くのベンチの上に寝かせて看病しているものの、何が原因かは全くわからない状態である。
『とりあえず吾輩がついているから、お前たちは船の後始末に戻れ』
「わかった。何か変わったことがあればすぐに伝えてくれ」
一緒にここまでルギーレを運んでくれたデレクとジェクトを船の後始末に戻し、アサドールは何が原因かを探り始める。
【とりあえず、傷口から菌が入り込んだことによる炎症などではなさそうだ。吾輩はセルフォンほど医学に詳しいわけではないから、こんな時にあいつがいてくれれば原因がすぐにわかる気がするのだが……】
戦いによる傷が原因ではないとすれば、考えられるのは内臓の病気だろうか。
今までピンピンしていた生物が突然倒れてしまうというのは、何も人間に限ったことではない。
しかしドラゴンとして生きてきた長年の勘が、これはどうもそんな簡単なものではなさそうだと告げているのを感じるアサドール。
【町の医者は現在出張中で不在。くそ……やはり医者に見せられないのは参ったが、どうも普通の体調不良ではなさそうだぞ……?】
セルフォンがいればもっと詳しいことがわかりそうなものだが、あいにく今は自分しかここにいないため、アサドールは考えられることを探れるだけ探ってみることにする。
ルギーレは浅い呼吸を繰り返しながら、うー……だのあー……だのうなり声をあげて苦しんでいる。
どこかが痛むのであればその痛みが生じている場所を無意識のうちに手で押さえるものなのだが、それが一切見られずに手がだらんと下がったままなのは気になる。
【精神的なものからくる病気も数多くあるのはわかるが、もしかしたらその類なのか?】
ああだこうだと考えてみるものの、実際にルギーレの身になっているわけではないので結局結論は出ないままのアサドール。
これはやはりセルフォンや、もっと医学に詳しい者に診てもらった方がいいだろうと考え、とりあえず自分がドラゴンの姿に戻って一度王都へと戻ることにする。
『……というわけだからすまないが、ルギーレを王都まで送り届けてくる』
「わかった。誰かがついていこうか?」
『ふむ、それならばジェクトに頼もう。ここでは手の施しようがなさそうだし、何かあった時のために一人はついてきてくれた方がありがたいからな』
というわけでジェクトが一緒についてきてくれることになったのだが、そのジェクトとルギーレを乗せた空の上でドラゴンの姿に戻っているアサドールは、ルギーレの体調不良について気になる点がもう一つあることを述べていた。
『そういえば前にも一度、ルギーレが倒れたことがあったんだったな?』
「ああ。その時もてんやわんやの大騒ぎだったみたいだが、その後は順調に回復したらしい。今回はどうなんだ?」
『……とりあえず憶測でしかものを言えないのだが、普通の体調不良ではなさそうだ』
「というと?」
ルギーレのそばについていたアサドールは、彼の身体の中から感じる妙なものが気になっていた。
『魔力が変なんだ。変っていうのはその……上手く説明できないのだが、普通の人間の体内にあるような魔力じゃなくて、魔物の類の魔力だとか他の人間の魔力だとか、そういうものが混じっているというか……』
「それは確かに不思議だな。それってルギーレの体内に複数の種類の魔力が混ざり合って入っているということだろう?」
『そうだと思う。だが、そこは血液検査なり魔力検査なりをしてみなければ細かいことも掴めんだろうな』
もしかしたら、その体内に入っている複数の魔力がぶつかり合って拒否反応を示すことによってこの体調不良が起こっているのかもしれない……というのがアサドールの見解である。
いずれにしても、この港町で医者に診せても同じくお手上げの状態だったと思われるので、結局王都の魔術研究所なり王宮医師なりに診せることで何かがわかるかもしれない。
とにかくそこまでルギーレの体力が持ってくれることを願いつつ、一本角の緑色のドラゴンはヴィーンラディの北に向かって翼を動かし、風を切って飛んでいった。




