370.最下層にて
作品タイトル変更して再開しました。
完結まで頑張ります。よろしくどうぞ。
ルギーレ、アサドール、クレガー、ジェクト、そしてデレクの五人は少人数なのは覚悟の上で、とりあえず今の船を制圧しにかかる。
さすがに相手の人数も多くなってきたものの、そこはルギーレのレイグラードとアサドールのドラゴンの力で力任せの戦法で切り開いていくしかなかった。
そしてその中で、このヴィーンラディの関係者であるクレガーとデレクからジェディオンという騎士団員は何者なのかの説明を受ける。
「ジェディオンはすでに五十……いや六十ぐらいだったかな。それぐらいの年齢までいっている男なんだが、さすがにベテランなだけあって経験に裏打ちされた技術の戦い方はなかなかのものだ」
「ああ。しかも十五の時から騎士団にいるって聞いたことがあるから、それだけ勤続年数が長いと今の騎士団長よりも発言権があったりする」
割と年功序列な部分もあるらしく、権力はやはり絶大のようで自分に降りかかる火の粉もそうした立場を利用して幾度となく揉み消しているらしいとの噂もある。
しかし、さすがに今回ほど大掛かりなことをしでかしては言い逃れはできないだろうとも語る騎士団関係者の二人。
「まあ、すでにセヴェンという他の騎士団員が絡んでいるのはわかったわけだし俺たちが証人だ」
「しかし、俺たちがいくら証言をしてもセヴェンやジェディオンが潜入捜査をしていたとか言い逃れをする可能性だってあるからな。そこはどうにかできないかな……」
そう、抜け道なんて探せばいくらでもあるのだ。
それでもヴィーンラディ騎士団がこの状況に関わっているとすれば、王国に災厄を持ち込む者たちを許すわけにはいかないのがクレガーやデレクたちである。
その思いを胸にしながらこの船の制圧を進めていけば、たどり着いた最深部では噂をしていたその男が待ち構えていた。
「ふん、ネズミが入り込んだと連絡があるからどんな奴らかと思えば、警備隊の小童と騎士団を追放された落ちこぼれじゃないか」
待ち構えていたのは青髪をオールバックに整え、ロングバトルアックスを両手で構えている初老の男の姿だった。
しかしそんな大柄な武器を使っていることや、服の上からでもわかるぐらいになかなか大柄な体躯をしていることからもわかる通り、今だにその肉体は衰えていないらしい。
だが、例えベテランであろうとも騎士団に反逆するようなことをしているのはすでにデレクの潜入操作によってわかっている。
「黙れ。俺は知っているんだぞ。あんたが麻薬事件の捜査に関する資料を自分の立場を利用して処分をしたり、その他にも色々と騎士団に疑いがかかりそうになると揉み消していたこともな!!」
「ふん、そんなのは当たり前だろう。私は六十一歳になる今まで騎士団員として王国に仕えてきた。しかし、そんな命がけの職業なのにどうしても待遇が悪いんだ!!」
この国は科学技術や魔術にばかり力を入れて、騎士団に対する待遇が悪いと不満を持っているジェディオン。
給料は少ないし、人手不足も年々酷くなっていくし、それでいて除隊する時の待遇もわずかばかりの年金ぐらいしかないなんて、どう考えても割に合わない仕事である。
全然元が取れないとなれば、こうやって裏の世界と繋がりを持って色々と元を増やすしかないと考えているジェディオン。
例えそれが、世界中で不幸な人間を増やすことになったとしてもである。
その言い分を聞き、真っ先に憤りの色を見せるのはルギーレである。
「ふざけるな……お前たちみたいなのがいるから、世界はいつまで経っても平和になんかならないんだろーが!!」
「人が二人以上いれば絶対に争いは起こるものだ。まだ若いから貴様はそれがわからないんだろうが、いずれわかる。この世界から争いがなくなることは絶対にない。それを噛み締めながら死んでいくがいい!!」
ジェディオンがそう言い返すと同時に、地下の最も広い物置を兼ねた船室の至る所から、まだどれだけ隠れていたんだと思わざるを得ないほどの人数の敵がバラバラと姿を見せる。
しかもこの船内では、大地の力を借りてツタで敵を絡め取ったりするようなアサドールの強力な魔術は使えないので、ここは純粋な真っ向勝負で行くしかなさそうだ。
『仕方ない、吾輩は弓と魔術で援護するから前衛は任せるぞ!!』
「りょーかい!!」
後衛が今のところアサドールと、ジェクトが半分魔術を使えるので彼のサポートにまわっている。
しかし前衛に偏りがちになっているのはアサドールの言う通りなので、ここはルギーレのレイグラードが中心となって戦いを進めている。
どうやらジェディオン以外にも騎士団に少なからず不満を抱いている騎士団員たちがいるらしく、ルギーレたちをここで口封じするべく次々に襲いかかってくる。
そしてよく見てみれば、そのゾロゾロと出てくる騎士団員たちや麻薬組織の人間たちにここを任せ、主犯であるジェディオンがコッソリと逃げ出そうとしているのをルギーレが目ざとく見つけた。
「あの野郎……逃がさねえよっ!!」
「ちょ……おい、ルギーレ!!」
ジェクトもルギーレについて行こうと思ったものの、そこに騎士団員の一人が突っ込んできたため足止めを喰らってしまう。
その間に、ルギーレは逃げていくジェディオンを追いかけて最下層の船室から甲板へと上がることができる階段を駆け上がっていった。




