369.ギルド長と騎士団
「……というわけで、残りの船を全て調べつくしてこの乗組員たちを倒すまで俺たちは帰れない」
「そういうことならもちろん協力は惜しまないが、まずは他の船に関して情報をくれないか? さすがに何も情報なしで乗り込むのは厳しい」
説明を受けた後でルギーレたちと合流したジェクトとクレガーだが、さすがにこの少人数で他の船の制圧をするのは無茶苦茶だ。
なのでせめて他の船について知っていることを教えてくれなければ、尻込みしてしまうのも当たり前といえば当たり前である。
「過去に騎士団の任務で盗賊を逃がしてしまったということもあって、俺はもうあの時みたいな屈辱と悔しさは味わいたくない。悔しい思いをするのはあれが最後だ」
『確かにそれはそうだろうが、そもそもどうやってこの船団に潜入したんだ? なかなか見張りの数も多かったし、今だってまだ敵がウヨウヨしているからな』
これから他の船に乗り込むにあたっては敵の反撃がかなり鮮烈なものになるだろうし、それだけの多くの人員を抱えている船団にどのようにして乗り込んだのか?
デレクはそんなにすごい潜入技術を持っているのだろうか?
何をどうしたらこんなに大きな船団のことを調べ上げられるのかを聞こうとするジェクトやルギーレだが、ふたを開けてみればそのカラクリはいたってシンプルなものだった。
「単純なことだ。相手の人数が……俺の敵になっている人間が多いからこそ、潜入するのも簡単なのさ」
「どういうことですか?」
「隅々まではなかなか目が行き届かないということだ。あんたは国は違えど騎士団員だし、クレガーはこの国の警備隊で副総隊長をしている。では聞くが、二人は自分の部下の名前や顔は一致しているか?」
そう問われて、クレガーとジェクトはお互いに顔を見合わせる。
「まあ、直属の部下だったらほとんど覚えているぞ」
「俺も同じだ。警備隊として一緒の隊員になるからにはそれなりに覚えておかなければならないからな」
しかし、その答えを聞いたデレクは「そこに盲点があるんだ」と言い出した。
「ほとんど? それなりに? では全てを覚えているわけではないんだな?」
「ああ。それはなかなか難しい。せいぜい覚えられても五十人ってところだろう」
「俺もクレガーと同じくらいだな」
「その答えは正しい。でも、それが敵からしてみればつけ入るスキになる」
組織が大きくなればなるほど、その末端まではなかなか目が行き届かなくなってしまう。
常日頃からメンバーの名簿に名前を通しているとか、顔見知りではなく毎日顔を合わせるだけの関係があるとかのレベルでもない限り、完璧に組織全体を把握するのは至難の業だ。
「俺はそこを突くことにした。俺みたいにギルドの長だとしても、新しく登録された冒険者のプロフィールをすぐにすべて暗記しろとか言われたらなかなかできない。まして新しく登録してくる冒険者の数は一か月だけでも百人を超えることだってあるからな」
だからその理屈でいけば、きっとこれだけ大きな船団に一人部外者が紛れ込んだとしてもわからない。
もちろんある程度の変装は必要だったが、それでもデレクの作戦は成功しているといえた。
「そして潜入した俺は一番の下っ端としてこの船団の中で様々な作業をして、船の内部構造だったり積んでいる品物だったりをできる限り記憶していった」
『その結果、地下にああやって麻薬漬けの人間たちがいることを知ったりしたわけか?』
「そうだ。そしてこの船団を指揮している人間の素性もわかった」
先ほどルギーレとアサドールが戦った茶髪の人間は、王国騎士団員でありながらこの船団に協力していたセヴェンという男。
しかし、そのセヴェンに指示を出していた男が存在するのだという。
「その男は騎士団員であり、国王の側近の一人だ」
「何だって? まさかそんな立場の人間までこの船団にいるのか?」
「悲しいがこれが現実だ。側近であるということは国を動かすのも圧力一つでどうにでもなる。側近としての立場の裏では自分についている騎士団員たちと船団で手を組み麻薬の取り引きをして、新興宗教の設立まで請け負っていた。さらに今回の麻薬事件の捜査に関する資料を自分の立場を利用して処分をしたりしていたのも奴だ」
その男を倒さない限り、このヴィーンラディに平和が訪れることはない。
そう言うデレクではあるのだが、ここで一つ気になったことがあるのでそれを質問としてルギーレがぶつけてみる。
「あのー、新興宗教の話なんですけど……教祖って言われている男もこの騎士団の人間だったりするんですか?」
「え? 教祖はその国王の側近のジェディオンという男だぞ?」
「……ああ、そうか。ならニルスがジェディオンと名乗っているということか」
「は?」
「ん?」
横で話を聞いていたジェクトもその会話に入ってきたのだが、なんだか話がかみ合わない。
これは妙だと一行が考え出した時、タイミング悪く敵がやってきたので応戦せざるを得なくなってしまった。




